飄々舎

京都で活動する創作集団・飄々舎のブログです。記事や作品を発表し、オススメの本、テレビ、舞台なども紹介していきます。メンバーはあかごひねひね、鯖ゼリー、玉木青、ひつじのあゆみ。

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イトウモ

劇場で107本観た2016年 ベスト映画10選

イトウモの2016映画ベスト10 1 ホース・マネー/ペドロ・コスタ 2 サウルの息子/ネメシュ・ラースロー 3 聖杯たちの騎士/テレンス・マリック 4 人生は小説よりも奇なり/アイラ・サックス 5 レッドタートル ある島の物語/マイケル・デュドク・ドゥ・…

ディズニー最新作『ズートピア』が描く不自然な共存

イトウモです。 『ズートピア』という4月に公開されたディズニー映画を紹介したいと思います。大変巧みなサスペンス映画です。 話は擬人化された様々な動物が暮らす世界でウサギとして初めて女性警官になった主人公がキツネの詐欺師と一緒に14件の連続誘拐事…

映画『キャロル』は2016年で最高の1本かもしれない。【ネタばれなし感想】

「サヨナラサヨナラサヨナラ」 というフレーズに聞き覚えのある方は、と尋ねると、もう10代はおろか20代前半の人でもあやしい結果が出るかもしれない。これは、日本を代表する映画評論家、淀川長治さんが1998年の亡くなる前日まで解説者として出演し…

『スターウォーズ/フォースの覚醒』新たな悪役、3人の主人公、血縁関係への偏執…【ネタばれ感想】

アート・オブ・スター・ウォーズ/フォースの覚醒 作者: フィル・スゾタック,リック・カーター,秋友克也 出版社/メーカー: ヴィレッジブックス 発売日: 2015/12/26 メディア: 大型本 この商品を含むブログ (3件) を見る 率直に。地味だなと感じた。 と、いう…

“スターウォーズ祭”に参加する前に。これまでのおさらいとオススメ動画紹介【フォースの覚醒】

はじめてスターウォーズという世界を知ってから15年が経ちました。その間にシリーズ全6作品を鑑賞する機会にも恵まれました。Ep2、Ep3については劇場まで赴きました。旧3部作についてはまだ淀川長治さんがご存命だった頃の日曜洋画劇場の吹き替え版で鑑…

『スターウォーズ/フォースの覚醒』を観る前に。スターウォーズの原風景(※ネタバレなし

小学校4年生のときに当時僕らの授業を担当していた図工の先生が僕らの通っていた小学校にピーター・メイヒューという俳優さんを招くということがありました。スターウォーズの旧三部作シリーズでチューバッカを演じていた方です。どういう経緯でこのイベン…

ゆゆしい音色20:皆殺しのメロディ 【同人小説】

M市北部を東西にまたがるK通り沿い南向きに面した日当たりのよい位置に店を構えたスターバックスコーヒーは、午前中のこの時間帯に店先から通り側に構えたカウンター席を覗くとガラスに陽光が反射して中の様子が半分も伺えない。マユが店先に到着したとき、…

ゆゆしい音色19:種明かし【同人小説】

「父親を逮捕 川原で発見された女子大生遺体。−T県警 27日午前5時頃、T県M市M区、P大橋近くのQ川河川敷S県の大学校に通う学生、木村濃子さん(19)が遺体で発見された事件で、警視庁は今月1日、濃子さんの父親である木村正竹(49)を殺人および死体遺棄な…

ゆゆしい音色18:デート 【同人小説】

M市警察署。県警の捜査本部が川原で発見された若い女の遺体に関する事件を捜査する間、刑事課に寄せられる庶務はほとんど大足とみきの二人でこなすことが多かった。平日の17時に毎日帰宅できるのもこの二人だけだった。 「大足さん、お疲れ様です」 「おお、…

ゆゆしい音色17:同窓 【同人小説】

8月15日。奏江みき、小学校と高校の同級生と食事。 「みきちゃん、ひさしぶり! 超ひさしぶりじゃない? え?だって高校ぶり? ってことはもう15年ぶりじゃない? だったら私たち、もう33になっちゃうじゃん。やだ、ちょっと待ってよ。ちがうちがう、そん…

ゆゆしい音色16:儀式 【同人小説】

T県警察M市警察署副署長、柳沼六郎の葬儀はその週末の日曜に行われた。 M市のインターチェンジ入口へと繋がる立体交差の脇には二つの葬儀場がある。式はそのうち大通りからこの道に入って奥まったところにある二つ目の葬儀場で行われた。駐車場の奥にある3…

ゆゆしい音色15:お祭り 後編【同人小説】

8月6日、20時30分。 僕ら夫婦は隣に座った人の声も聞こえない音量で音楽の流れる店で3人のおじさんと酒を飲んでいる。 妻の重厚な演奏が終わったあと客席は一晩中走り続けたマラソンランナーみたいにどっと疲れきっていたが、信じられないことに実際の時…

ゆゆしい音色14:お祭り 前編【同人小説】

8月6日。 19時からの公演に合わせてリハーサルは中止しなければいけなくなった。本来なら3の倍数の月にしか行わなかった定期のリサイタルをずらしたせいで「8月なのにものすごく9月みたいな気分だ」と文句を言われながらも僕はなんとか妻にピアノを弾く…

ゆゆしい音色13:ピアニスト 【同人小説】

7月26日 午前9時。 甲斐の家の近所のスターバックスコーヒーはM市北部を東西にまたがるK通り沿い南向きに面した日当たりのよい位置に店を構え、午前中のこの時間帯に店先から通り側に構えたカウンター席を覗くとガラスに陽光が反射して中の様子が半分も伺…

ゆゆしい音色12:時には運のない娘のように 【同人小説】

酒のせいで首筋から耳の周りがずきんずきんと痛む中、昨日妻が連れてきた男の処理をはじめる。いつものように彼女が頚椎の一部分を骨折させたことによって男は窒息している。めずらしく今回、他の外傷はほとんど見られない。新品らしいナイキのランニング・…

ゆゆしい音色11:おわかれ 【同人小説】

裸の女はウー、ウーと寄せては返すドップラーなサイレン音に導かれ、トネリコ模様があしらわれた薄いミントグリーンのカバーがついた羽毛布団を羽織ると少女に戻ったみたいに勢いよくベッドを飛び降り窓際まで駆けていきカーテンを開いて布団の裾を重たいド…

「ゆゆしい音色」10:ゆゆしい音色 【同人小説】

「プロになろうと思ったことはないの?」 羽生の質問はマユの耳には届かなかったのだろうか。こんなにいい耳をしているのに? 平らげられたばかりの何枚もの皿、中華料理の残骸を隔てて座る彼よりも少し年上の女。彼女のとりわけ高性能な耳は意味を持った言…

「ゆゆしい音色」9:豚のナポレオン 【同人小説】

1917年、マユの曽祖父にあたる男、北村和夫は四国のドイツ人捕虜収容所で事務員をしていた。1914年にはじまった第一次世界大戦の余波により日本はイギリスによる要請から日英同盟に基づいた大陸への進軍を開始する。戦局が連合国側優勢に傾くと青島をはじめ…

「ゆゆしい音色」8:指さすほうへ【同人小説】

6月13日。 M警察署で一番小さな会議室。折りたたみ式の机が縦に3列並び、午前9時の今にも雨の降りそうな空、東側の壁の窓を遮るサッシ越しに曇り空から強めの紫外線が差し込む。ホワイトボードの前に立った甲斐という刑事はまだ40になったばかり。くるく…

「ゆゆしい音色」7:悪魔(後編) 【同人小説】

数式によってこれから起こる未来を見通そうとする思考の歴史は古い。それは「決定論」と呼ばれ、一部の学者はそうした決定論を純粋に使いこなす知性を悪魔と呼んだ。フユヒコと有下の共著、二版目の『適正人口』はそれほど厳密な分析ではなかったはずなのに…

「ゆゆしい音色」6:悪魔(前編) 【同人小説】

5話までのあらすじ 「人間に一番害をなすものは他の人間」 そう言って、3ヶ月に1度のリサイタルの前日に必ず人を殺すアマチュア・ピアニスト、西村マユ。彼女は無職の夫と父親の金で買った郊外の一軒家に暮らしている。夫のフユヒコは国立大学の社会学部の…

「また村上春樹がノーベル文学賞獲れなかった」。そんなことより受賞した女性ジャーナリストの『チェルノブイリの祈り』を紹介します。【おすすめ本】

イトウモです。 2015年10月8日、今年のノーベル文学賞受賞者が発表されました。 毎年この時期には「また、村上春樹が獲れなかったよ」という報道がもう秋の風物詩のようになりつつありますが、今年ばかりはもっと気の利いたヘッドラインが望まれるのではな…

細田守『バケモノの子』とハーマン・メルヴィル『白鯨』について【おすすめ夏休み映画】※一部ネタバレ感想あり

イトウモです。 一ヶ月ほど前になりますが、細田守監督の話題作『バケモノの子』を見てきました。青木さんからのお達しもあり、この作品について少し書いてみようと思います。 熱心なファンというわけではないですが、細田作品についてはデジモンやワンピー…

「ゆゆしい音色」5−2:才能 【同人小説】

藤本に教えられた住所は繁華街の東西に走る車道から一本路地裏に入り口のある貸しビルの地下二階。劇場のボックス席のような入り口。夏だというのに目深にニット帽をかぶった男がもぎりをやっている。一人しか通れないくらいの狭い入り口通路を抜けて中に入…

「ゆゆしい音色」5−1:才能 【同人小説】

前回はこちら↓ 「ゆゆしい音色」4−1:初恋 【同人小説】 - 飄々舎hyohyosya.hatenablog.com 「天才っていうのはなにをしたらいいか知っているということなんだよ」 なにも聞く前から藤本はそう話し始めた。羽生が彼の自宅のドアを開けると車椅子に乗った藤…

「ゆゆしい音色」4−2:初恋 【同人小説】

ジャンボジェット機が墜落する。 小学校5年のみきちゃんは瞳が大きくて鼻が高くて面長の女の子。今は丸顔だが、その面影はしっかり残っている。むしろ彼女は子どもの頃に顔のパーツの7割がすでに完成してしまっていて、あとから他の部分が追いついてバラン…

「ゆゆしい音色」4−1:初恋 【同人小説】

前回はこちら↓ 「ゆゆしい音色」③:指 【同人小説】 - 飄々舎hyohyosya.hatenablog.com 「美術館に切断された指 被害者は身元不明 T県M市 10日午後3時30分ごろ、T県M市M区の市立美術館において男性のものと思われる左手の指4本が発見された。第一発見者で…

「ゆゆしい音色」③:指 【同人小説】

6月10日。 1週間前の梅雨入り宣言。その割にはまだ今年の雨の日は少ないけれど、たしか今日の太陽が隠れたのは正午を回ったあたり。空はみるみる曇りはじめ今は泣くのを必死に堪えたしかめっ面でこっちを睨んでいる。濃子の車に戻ったところで意識がふっと…

「ゆゆしい音色」②:豚娘 【同人小説】

前回はこちら 新連載「ゆゆしい音色」①【同人小説】 - 飄々舎hyohyosya.hatenablog.com 「あ、西村フユヒコ」 「知り合い?」 「ほらあの人。この前、話したベストセラーの」 「え、なにしてんの? 学生?」 「ちがうよ。出版した本がだめになっちゃったんだ…

新連載「ゆゆしい音色」①【同人小説】

「それ、殺すの?」 声のするほうに視線を向ける。台所で夕食ができあがるのを待ちながら僕の手を見る妻の眼を見る。それから自分の結んだ手を開き、中のティッシュにくるまれたさっきまで蜘蛛だったものを見る。8本の脚をすべてばらばらにされたあとぐちゃ…