飄々舎

京都で活動する創作集団・飄々舎のブログです。記事や作品を発表し、オススメの本、テレビ、舞台なども紹介していきます。メンバーはあかごひねひね、鯖ゼリー、玉木青、ひつじのあゆみ。

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ゴリラの突進で「死」を意識した話

どうも。あかごひねひねです。今週のお題「ゾクッとする話」について、幼い頃の思い出を書きたいと思います。

僕が小学校の頃の話です。季節は夏。多分夏休みだったと思います。僕は家族と地元の動物園に行くことになりました。
親が友達を誘ってもいいと言ったので、仲の良い友達を数人誘い、当日は主に友達と行動していました。
 
事件が起こった時、僕は誘った友人のうち1人と類人猿舎を見ていました。
類人猿舎は野外と室内を動物が自由に行き来出来るようになっており、野外は鉄格子、屋内は強化ガラス越しにチンパンジーやゴリラの様子を見ることが出来ました。
 
その日は暑かったためか、ゴリラもチンパンジーも日陰の、涼しい屋内で過ごしていました。
僕と友達は類人猿舎の出口近くの部屋にいる一匹のゴリラを見ていました。
ゴリラは三方コンクリート、一方ガラス張りの部屋の奥の方で、ガラスとその向こうの僕らに背を向け、ジッと座っていました。
 
しばらく見ていても、ゴリラはずっとこちらに背を向けたまま動きません。
僕は正直、「つまんないな」と思いました。多分友達もそう思っていたでしょう。他の観客もそうだったようで、たまにガラスを叩いてゴリラの注意をこちらに向けようとする人がいましたが、ゴリラはそんなもの意にも介さず、ジッと座っていました。
 

事件

 
事件は突然起こりました。ずっとこちらに背を向けて座っていたゴリラがいきなり振り向いたかと思うと、信じられないスピードでこちらに向かって来たのです。
本当に突然の出来事でした。もしかすると、その直前に強くガラスを叩いた客などがいたのかもしれませんが、ゴリラはずっとそんなもの無視していたのです。とにかく、幼い僕の記憶では、ゴリラは突然こちらに向かって走り出しました。
 
テレビでカバやオオトカゲなど巨大な動物がその体に似合わないスピードで走る映像などが流れる時、なんとも形容しがたい謎の迫力がありますが、ゴリラの突然のダッシュはまさにそれでした。
 
最初はすぐ立ち止まると思っていたゴリラのダッシュは、むしろガラスに近づくにつれて加速していました。
ゴリラの目は、真っ直ぐ僕らの方を見ています。
ガラスの向こうには鉄格子もあり、ゴリラの力でそれを破ることなど出来るはずが無い。頭では分かっていたのです。
しかし、ゴリラは止まらないのです。慣性の法則からみても、既にゴリラとガラスの間には立ち止まれるだけの距離はありません。その状態でゴリラはさらに加速します。鉄格子が破れなくとも、ゴリラ自身が大きなダメージを負うであろうスピードです。しかしゴリラは加速します。目は、しっかりと、ガラスの向こうの僕らを睨みつけたまま、ゴリラは一直線に向かって来ます。
 

逃走

 
ゴリラが振り向いてから、ガラスの近くにくるまで、時間にすれば1秒足らずの時間でした。
殺される。
本気でそう思いました。
確実に僕らを殺すだけの能力のある動物が、恐らく敵意をむき出しに、恐ろしい勢いでこちらに突進して来ているのです。
ゴリラがガラスを突き破る情景が鮮明に頭に浮かびました。
僕と友人は叫び声を上げ、ゴリラの檻に背を向けて走り出しました。
僕は振り返りませんでした。ゴリラの足の速さが僕らを上回っているのは明らかなのです。後ろを振り返って自ら減速するようなことは、恐怖のあまり出来ませんでした。
 
僕と友人は類人猿舎を飛び出し、眩しい日差しの下をそのまま少し走って止まりました。
後ろを振り返るとゴリラはいませんでした。
類人猿舎に戻ると、ゴリラは先ほどまでと同じようにガラスに背を向け、ジッとしていました。
まるで何事も無かったかのように。
僕は、先ほどのダッシュのスピードと距離では鉄格子に激突することは避けられないと思いました。しかし実際に激突したのかは見ていないので分かりません。ゴリラが負傷しているのかどうかも、その後ろ姿からは分かりませんでした。
 
どこか狐につつまれたような感覚で、僕と友人は類人猿舎をあとにしました。
 
そんな、オチの無い話です。