あかさか対談「桃太郎を深読みする」3(完結編)
この記事は以下の記事の続きです。
あか:あかごひねひね
さか:さかごくるくる
〜脳内某所、おしゃれなカフェにて〜
あか「桃太郎はなぜ鬼退治に出かけると言いだしたのか。その話の前に、そもそもなぜ、鬼退治が必要になったんだっけ?」
さか「そりゃ鬼が村にやってきて悪さをするからでしょ」
あか「その通り。ではなぜ、鬼は村を襲い、略奪するのか」
さか「へ?えーっと、なんでだろう。村人が憎いから?」
あか「うん。俺もそう思う。もちろん、略奪によって生活を維持していた部分はあるだろうけど。やはりそこには憎しみが介在していると思うんだよね」
さか「うん」
あか「ところで、鬼という言葉はなかなか表現の幅がある単語だよね。単体で「鬼」って言うと全身赤か全身青で、虎のパンツに天パに角、ってイメージだけど、実際人は様々なもののことを「鬼」という」
さか「鬼嫁、とか鬼教官とか?」
あか「そう。クレーマー気質の親をモンスターペアレントというけど、これなんか日本語で言ったら「鬼親」とか呼ばれるかもしれない。鬼という言葉は尋常ならざるもの、モンスターを指す言葉と考えていいだろう。つまり、桃太郎に出てくる鬼は、孤島に集住していて、憎しみ故にたびたび人間を襲撃するモンスターだ」
さか「話を要約するとそうなるね」
あか「では、翻って桃太郎自身はどうだろう」
さか「……」
あか「桃の中から生まれ、高濃度の放射線を浴びて育った、突然変異人間。桃太郎も、紛れもなく、モンスターだ」
さか「つまり、モンスターである桃太郎が、同じモンスターである鬼を退治するということ?」
あか「そう。加えて両者の共通点はモンスターであることだけとは限らないよ。桃太郎は運良く核実験施設の検査員の老夫婦に拾われた。しかしもしも、桃が流れてきたとき、おばあさんが河で洗濯をしていなかったら、どうなっていただろう」
さか「桃は、そのまま下流に流れていくだろうね」
あか「そして、河の下流にはえてして人間の集落がある。そこで桃太郎が発見されたとして、はたして受け入れられただろうか。僕は受け入れられたとは思えない。きっとその場で殺されるか、もしくは」
さか「集落から追放されるか、だね。どこぞに捨てられる」
あか「それが、モンスターの集まる島、鬼ヶ島なんじゃないか」
さか「……」
あか「そう考えれば、鬼ヶ島の鬼たちが村の人々を襲撃する動機も分かる。かれらはその容姿や出自故に自分たちを追放した人間に復讐していたんだ」
さか「なるほど。鬼の正体は分かった。でもさ、だとすると、なおさら桃太郎が鬼たちを退治しに行った理由が分からないよ。同じモンスターで、しかも向こうは自分より不遇な目にあっている。その鬼をわざわざ退治する理由ってなんだ?」
あか「桃太郎のラストってどうなるんだった?」
さか「鬼を退治した桃太郎たちは、鬼が奪った金銀財宝を持って、おじいさんおばあさんのもとに帰って来ましためでたしめでたし、じゃないの」
あか「これが、最後のポイントだ。結論を出すために必要なピースは、桃太郎の生きる意味とは何か。ということ」
さか「生きる意味?」
あか「親は無く、桃の中から生まれ、周囲の人間と交わることもなく、核実験施設の調査員である老夫婦に育てられたモンスター。桃太郎。彼は何のために生きたのか。おそらく、鬼退治は彼が発案したものではない。彼にはそれを提案する動機が無いから。村がいくら襲われても、桃太郎には無関係だから。動機があるとすれば誰か。村人を襲う鬼の誕生の根本原因は核実験施設だ。その施設と、村との間に住む、施設の末端の人間でありながら、村とも多少の交渉を持つ人物」
さか「おじいさんと、おばあさんか」
あか「きっと、強制したわけではないと思う。村の人間は施設への反感を強めていく。それは、施設の人間でもっとも身近なおじいさん、おばあさんに向けられる。例えば、興奮して怒鳴り込んできた村人を追い返した後で、おじいさんがぽつりとつぶやくんだ。「誰か、何とかしてくれよ」ってさ」
さか「それが、桃太郎の鬼退治の理由?」
あか「おじいさんとおばあさんは止めたかもしれない。だって、桃太郎と鬼たちは育った環境は違うといっても共通した出自を持つ者たちだ。村を襲っているからといって、その彼らを桃太郎が討伐することの残酷さを、二人は理解していただろう。でも最初から、桃太郎には村だとか、出自だとかは関係なかったんだ。彼の心の中には最初から、自分を育ててくれた大好きな老人二人以外、誰も居なかったんだ」
さか「それと、桃太郎のラストのシーンがどう繋がるんだい?」
あか「桃太郎はラストで金銀財宝を持っておじいさんとおばあさんのもとに帰ってきた、と君は言ったね。僕の知っているお話もそれと同じだ。いいかい、桃太郎が鬼から奪還した金銀財宝は元は全て村人たちのものなんだ。村人のために鬼を退治したなら、戦利品は当然、村に返すはずだ。しかし、僕は桃太郎が取り返した財宝を村人に返還した、なんてストーリーは聞いたことがないんだよ。桃太郎は最初から、村のことなんてどうでもよかった。ただ、鬼の襲撃がある度に、その不満を老夫婦にぶつけにくる村人が居なくなれば、それでよかったんだ。だから、その過程で手に入れた財宝も、平然とおじいさんとおばあさんのものにできた」
さか「そんな」
あか「さらに想像してみよう。僕には鬼ヶ島の鬼たち全員が村を襲撃していたとは思えない。だって、全島一致で村を襲撃するくらいなら、わざわざ鬼ヶ島に住む必要がないじゃないか。村人が襲われるがままになっていたことを考えると、鬼と村人の戦力の差は圧倒的だ。もし、鬼たちが本腰を入れて村を襲撃していたなら、きっと村は陥落していたはずなんだ。鬼たちは、村の襲撃を否定はしなかっただろうが、特に推奨もしていなかったろうと思う。実際にたびたび村を襲っていたのは、鬼ヶ島でも一部の過激派だったんじゃないだろうか。そんな状況で、自分たち同じ出自を持つ桃太郎がやって来た。鬼ヶ島の鬼はどうしただろう。全力で桃太郎を排除しようとするだろうか」
さか「もう少し、慎重な対応をするだろうね。桃太郎になら、話が通じるかも、という希望も持てるし。でも……」
あか「そう。でも、桃太郎にはそんなこと、全く関係なかったんだ。出自も何も。彼はただ、おじいさんと、おばあさんのことだけを考えて行動していたんだもの。たとえ鬼たちが、自分がもしかしたらたどるかもしれなかった、もう一つの未来だったとしても。そんなことは何も関係なかったんだ。ためらわず刀を抜いて、説得を試みる目の前の鬼を斬り殺し、連れてきた手下の獣に指示を出しただろう。そうやって鬼を退治したんだろう」
さか「そんなこと……。そんな残酷な。それじゃまるで、いや、そうか」
あか「そうなんだよ。言っただろ。桃太郎は最初っからモンスターなんだよ。たまたま懐いたのが人間だっただけのモンスター」
さか「……」
あか「桃太郎もまた、いや、鬼ヶ島の鬼以上に、鬼だったんだ」
さか「……」
あか「……」
さか「……」
あか「……」
さか「……どうすんだよこの対談。この結末」
あか「どうしようね」
さか「なんか、もう2話目くらいから暗すぎるよ」
あか「……」
さか「求められてないよ。この路線は、たぶん」
あか「えーっと、次回に、ご期待、ってことで」
さか「次回、あんのか?」
おしまい☆