飄々舎

京都で活動する創作集団・飄々舎のブログです。記事や作品を発表し、オススメの本、テレビ、舞台なども紹介していきます。メンバーはあかごひねひね、鯖ゼリー、玉木青、ひつじのあゆみ。

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第一回よまいでか『王妃の離婚』

こんにちは、かみしのです。

 

ぼくはとてもうれしいです。

対談で、うっかり『大菩薩峠』の話をしてしまったので、しょっぱなから記事更新が3年後とかになるんじゃないかと思っていたので。

他にも『失われた時を求めて』とか『特性のない男』とか『灼眼のシャナ』(全巻)とかきたらどうしよう、と内心びくびくしていたので、世界のやさしさに感謝してます。多謝。

 

そういうわけで第一回よまいでか、作品は佐藤賢一『王妃の離婚』です。

 

王妃の離婚 (集英社文庫)

王妃の離婚 (集英社文庫)

 

 

まずは作品紹介。

 

1498年フランス。時の王ルイ12世が王妃ジャンヌに対して起こした離婚訴訟は、王の思惑通りに進むかと思われた。が、零落した中年弁護士フランソワは裁判のあまりの不正に憤り、ついに窮地の王妃の弁護に立ち上がる。かつてパリ大学法学部にその人ありと謳われた青春を取り戻すために。正義と誇りと、そして愛のために。手に汗握る中世版法廷サスペンス。第121回直木賞受賞の傑作西洋歴史小説。

 

法廷ミステリー、直木賞作品、歴史もの……正直なところ、自分ではまず読まないジャンルの本だったので少し身構えてしまいました。

最初のページをめくってみたら飛び込んでくる横文字横文字横文字。

ブールゴーニュ公領の併合は『イン・ユーレ」』さ。」「サント・ジュヌヴィエーヴ通りを抜けながら~」「セーヌ河の左岸に広がるパリの学生街は、世に『カルチェ・ラタン』と呼ばれていた」といった具合にカタカナがぽんぽんでてきます。

お堅い裁判ものに加えて、この横文字。これは、なかなか読むのに時間がかかりそうだと思っていました。第二章に入るまでは。

 

この小説は三つの章とプロローグ、エピローグから成り立っていて、実際に裁判が始まるのは第二章「フランソワは離婚裁判を戦う」からです。

上のあらすじの通り、原告はルイ12世、被告はその妻ジャンヌ。

ルイはジャンヌと離婚したくて、裁判を起こします。離婚裁判とはいえ、国王と王妃の話ゆえに、群衆たちはかなり熱狂しています。傍聴席は大学の教授や学生、弁護士、大衆でごったがえし。

主人公のフランソワはルイ11世によって、大学を追い出されていて、その娘であるジャンヌなんか苦しんだらいいという主人公らしからぬ気持ちで裁判を傍聴しています。

ちなみにこのフランソワには昔愛し合った女性がいて、ルイ11世にその仲さえも引き裂かれています。

そんなわけで、その鋭い洞察と行動からカルチェ・ラタン(学生の街)の伝説と称されているフランソワは、私怨から裁判に参加せずにくだくだしてるわけです。

 

そんな折、フランソワはジャンヌとかつての恋人ベリンダが友人であったということを知らされます。

愛の力ですね。

いろいろな思いを抱えながら、フランソワはジャンヌの弁護士としてルイ12世と戦うことを決心します。

 

ルイ12世側がジャンヌに処女検査(処女かどうかをチェックしてもしそうだったら、夫婦としての営みがない、ということで離婚させられる)を提案した際、窮地に立たされたジャンヌは役に立たないこれまでの弁護士に代わって「新弁護士」を要請します。

もちろんこれはフランソワのことですが、応じるときのフランソワの台詞がこれ。

 

スム・アドウォカートゥス・ノーウス・エゴ(新しい弁護士は俺だ)

 

ラテン語です。ほとばしりますね。

中世の裁判はラテン語で行われるので、ラテン語で名乗りを上げるのは当然なのですが、かっこいいですよね、ラテン語。卍解とかしそうです。

 

そんなわけでここからは愛の力によって覚醒した伝説の男・フランソワの独壇場になります。いわゆる「俺TUEEE」的な展開にまみれていきます。

 

まずは相手の発言を逆手にとって、どんどん論破していきます。ダンガンロンパとかリーガルハイの世界観です。論理的に処女裁判を取り下げ、ときに恫喝しながら、フィールドを塗り替えていきます。

ラテン語以外の言葉は記録されないため、フランス語のがやを入れながら、大衆を巻き込んでいきます。

このがや芸人たちがいい役割をしてる。

「さっすが生ける伝説の弁護士先生だぃ」

「きゃー素敵抱いて」

「マギステル(フランソワの別称)……かっこいい……」

といった具合に、地の文でフランソワを持ち上げる持ち上げる。

承認欲求がびんびん満たされていきます。

 

二回目の裁判ではフランソワはわざと腑抜けを演じます。もちろんそれは言質をとるための策略。こんな具合に本領を発揮します。

 

フランソワは不敵な笑みを浮かべた。ああ、疲れた。ここいらへんで、そろそろ腑抜けの演技はやめだ。――油断させて、一気に裁判をひっくり返す。さて、勝負だ。宣誓する女の声を聞きながら、フランソワは拳を揉んで、ばきばきと指の節を鳴らした。それが変身を仄めかす無言の合図だった。

 

かっこよくないですか?この裁判においてはフランソワは最強なんです。ぼくの頭の中では堺雅人が不敵な笑みを浮かべています。

このあとも、ラスボス・ルイ12世の登場、恋人ベリンダの弟にして王の犬・オーエンとの確執、謎の美少年フランソワ、ルイ12世にけしかけられた仮面の殺人者集団……などなどはらはら展開目白押しです。

ああ、エンターテイメントってこういう作品のことを指すんだな、っていうのがよくわかりました。

 

直木賞選考委員も賛辞を送っています。

 

・読んだ印象は、楽しませてもらったという一語につきる。――津本陽

・おもしろくて、痛快で、おまけに文学的な香気と情感も豊か。――井上ひさし

・全体のつくりは知的で諧謔的で、やや非現実的だが、意外に男女の本質をついて機智に富み、面白く読ませる。――渡辺淳一

 

男女関係ご意見番の渡辺淳一もほめているので、恋愛小説としてもすごくいいのだと思います。

ぼくはいくつかの漫画やドラマを視聴してきて、ある種のデータベースをもっている人は特に楽しめる作品なんじゃないかと思います。

配役を当てはめてみてもよし、漫画家の画風で想像してみてもよし。

話の構成上、あんまりいうとネタバレになってしまうので言えませんが、痛快さと楽しみを求める人はぜひ読んでみてください。

 

 

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大菩薩峠 01 甲源一刀流の巻

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