読書放談neo!新企画「ルーツ放談」
読書放談とは?
飄々舎のあかごひねひねと、その読書の師匠であり先輩であり後輩であり友人である読書人間かみしのによる、読書についての対談記事シリーズ。本紹介大喜利など、読書好きのための謎の企画を行う。
初回↓
参加者
あかごひねひね(以下「あ」)
かみしの(以下「か」)
あ:えー、久しぶりの読書放談ですが、では今回の企画の趣旨の説明を
か:はい
あ:今までの読書放談は本の内容についてやってきたよね
か:そうだね
あ:その本がどういう本なのかとか。ただ、その本をなぜ僕たちが手に取ることになったのかについてはあまり話してこなかった
か:なるほど
あ:でも、大事なのはそっちなんじゃないかと思うわけです
か:どうやってその本を見初めたかという
あ:そう。僕たちはさ、いわば仲間が欲しいわけじゃない?でも自分が手に取った本を別の人に手にとってもらっても、なぜその本を手に取ったかという理由が共有できないと、本質的に仲間にはなれないんじゃないかと
か:なるほど
あ:と、いうことで読書メーターの読書記録を遡りながら、その本を手に取ったきっかけについて根掘り葉掘りやっていくという企画です
か:けっこう遡るの大変だけどね
あ:いや、でもけっこうルーツは一緒の本もあると思う。似た系統とか、同じ人が勧めてるとか。これは僕の持論なんだけど、読んだ全ての本にそのルーツはあるはずで、しかも以外と突き詰めてくとそれって一人四個くらいなんじゃないかと思ってて
か:なるほど。俺はパッと思いつくのでは国語便覧ってのがあるね
あ:そうそう。そういうのを確かめるのも兼ねて、根掘り葉掘りやっていこうという
か:確認のためにね
あ:ではまず僕から。一番最近読んだ本が、これは前にも紹介したけど塩野七生さんの『ローマ人の物語』の、32巻(笑)!!。"迷走する帝国・上"!!ついに五賢帝も全員死に
か:パクス・ロマーナが……
あ:そう、パクス・ロマーナが終わりまして。そこから軍人皇帝時代までの、ちょっとグダった時期を書いてる
ローマ人の物語〈32〉迷走する帝国〈上〉 (新潮文庫 し 12-82)
- 作者: 塩野七生
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あ:で、この塩野七生さんの本を読んだきっかけが、これも前から言ってるんだけど、雑誌「ファウスト」の編集長の太田克史さんとSF作家の渡辺浩弐さんが二人で2012年頃にやってたニコ生があるんです
か:ほう
あ:そのアーカイブが今でも残ってて、ブログにリンクとかも貼っとくけど、そこで「この本、ステマせん!」っていうコーナーがやってたの。ちょうど「ステマ」って言葉が流行ってた時期で。同時に太田さんが2ちゃんねるで「こいつがステマの元凶だ」って何故か叩かれたりして。それも全然無実の罪で(笑)
か:無実の罪で(笑)
※その企画のアーカイブがまとめられたブログ↓
公開企画会議(仮) 非公式アーカイブ非公式まとめ:W-Cat 別館 - ブロマガ
あ:その時に毎週一冊ずつ本を太田さんと渡辺さんで紹介していこうって企画が始まって。シャレでそういうタイトルになったんだけど。そのニコ生のある回の放送で太田さんが紹介してたのがこの本だったんです
か:ほう
あ:紹介されてたのはシリーズの最初の方の、ハンニバル戦記(ポエニ戦役)の部分だったんですけど
か:なるほどね
あ:もっと言うと、そのニコ生を知った元はというと……大学時代って作家になりたくなる時代だと思うんですよね
か:まあ、そうだね(笑)
あ:で、その時の僕は「新人賞しかねえ」と思ったわけです。それでネットで調べると、どうも"星海社新人賞"ってのが目に付いた。何で目に付いたかっていうと、2ちゃんねるで星海社の新人賞がめっちゃ叩かれてたからなんですけど(笑)。リンク先とか見てみると、どうも太田克史って人がリーダーっぽい。そこでは選考の様子を座談会って形式でネットにアップしてて、これはメフィスト賞っていう講談社の賞のやり方を継承してたんですけど、そこで投稿作をかなり厳しく批判してて、それがネットで燃えてたんですね。そこから僕は入って行きました。そこから繋がっていったのがローマ人の物語、というわけです
か:なるほどね
あ:……っていう具合に遡って行くんです
か:っていう具合に。これ何冊くらいやんの?
あ:時間の許す限り
か:許す限り(笑)。それはブログになるの(笑)?
あ:なるよ!なるなる!
か:じゃあ俺も一番最近のやつからいこうか。丸山圭三郎の「言葉と無意識」っていう
あ:これは何の人?
か:この人はソシュールの研究者だね。ソシュールっていうのは構造主義って考えの元というか。丸山圭三郎はそれを日本に紹介した人だね
あ:ほう
あ:あー、内田樹はフランスの思想とかが専門なんでしたっけ
か:そうだね。レヴィナスとか、専門なんだけど、たぶん高校の時に新書を長期休暇の時に一冊ずつ全員に配られて、それを読んで来なさいみたいな
あ:配られんの?
か:配られる配られる
あ:買って来いとかじゃなくて配られんの?
か:そうそう
あ:選択の余地は?
か:無い。同じ本が配られる
あ:すごいなあそれ
か:その中に内田樹の『寝ながら学べる構造主義』って本があって
あ:なんか内田樹は高校生も読めるような読みやすい文体で書くもんね
か:そうそう。そこで構造主義の人たちを知って。レヴィ・ストロース、ロラン・バルトとか。その中でたぶん丸山圭三郎とソシュールってあたりが触れられて。それでたぶん丸山圭三郎は知ってて。それで大学時代にこう、やっぱ記号とかやってく中でソシュールとかは勉強してきて。だから丸山圭三郎と言葉と無意識あたりの話はずっと頭にあった
あ:これは新しい本?
か:いや、結構古いんじゃないかな。80年くらい
あ:古いなあ(笑)
か:だからけっこう古い話をしてたりするところもある
あ:しかし凄いなあ。高校まで遡るのか
か:そうだね。哲学とかの興味のきっかけはだいたい高校とかにある。俺、中学の時に自分が後々通う高校に体験授業に行ったんだけど、そこでフーコーのテキスト読んでたからね
あ:体験授業で?
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あ:おかしいよね
か:中学生相手に(笑)
あ:それは日本の学校ですか?
か:日本の学校ですよ
あ:フランスに留学とかしてたんじゃないの
か:しかも学校に受かったら学校から『哲学入門』みたいな本が送られてきて
あ:(笑)
か:変な高校だったよ
あ:そんなの全然無かったなあ
か:っていう感じだね
あ:よし。……じゃあ僕の二番目の本だね。近いかもしれないんですけど『おどろきの中国』っていう本で。橋爪大三郎と大澤真幸の対談シリーズがあるじゃないですか
か:うん
あ:そううちの一冊なんですよ。しかも今回はそこに宮台真司が入ってる。このシリーズ僕好きなんで買ってみたんですけど、元々このシリーズで読んだのは『ふしぎなキリスト教』なんですよね
か:出てるね、いろんなシリーズが
あ:そう。キリスト教とかいろんなことをしゃべっていくシリーズで。『ふしぎなキリスト教』を読んだのは単純に前に勤めてた職場がキリスト系だったっていう
か:(笑)
あ:前の職場もそうだし、その前の職場もキリスト関係で。今も結局キリスト関係のところにいるから「これはもう洗礼しかないんじゃないか」みたいな感じになってきてる
か:付けるの?洗礼名を(笑)
あ:ほんとにヤバいんですよ。しかうち、おばあちゃんだけがカトリックなんだけど、この前「うちの家にひいおじいさんから受け継いだマリア像がある」って言われて
か:(笑)
あ:その像は京都の三条の教会の人が、昔、新しくマリア像作るのに型を取るのに借りに来たくらい良いやつらしいんですよ
か:ちゃんとしたマリア像なのね
あ:そう。で、これを、僕に譲ると(笑)
か:(笑)
あ:いやいや、僕信者じゃないからさ。それにマリア像まで来たらいよいよ王手感が強いじゃん。洗礼待った無し!みたいな
か:そうだね。本物の感じがあるね
あ:とまあ、そういう関係で読んだのが『おどろきの中国』なんですよ
か:なるほど
あ:あと、大澤真幸に関してはその前から名前だけ知ってて。本は読んだことなかったんだけど、この人京大の教授だったんですよね。で、ちょうど僕が京大近辺でいろいろ活動してた時にこの人、セクハラでクビになったんですよ(笑)
か:(笑)
あ:で、京大って卒業式でコスプレするじゃないですか。知り合いの先輩が卒業する時のコスプレで普通にスーツなんですけど頭に天パのカツラ被って、胸に「大澤真幸」って名札を……(笑)
か:ひどいなあ(笑)
あ:すっげー覚えてる(笑)でもなんか思想家としては名のある人だってのは聞いてたんですけど。僕的には「あ、セクハラの」って(笑)
か:大澤真幸の話をするとさ……俺の高校の先輩なんだよね。大澤真幸って
あ:そうなの!!??じゃあもうそういう所じゃん
か:セクハラの人がたくさん出るわけではないよ!だから、高校の授業で大澤真幸の文章やった時に「この人はうちの高校の卒業生だ」って話を聞いた
あ:へーー。すごいなあ。あまりにもそれっぽいね。その教育方針から大澤真幸出てくるっていう
か:そうだね
あ:じゃあ二冊目どうぞ
か:ああフリオ・リャマサーレスの『黄色い雨』っていう
あ:何それ?何それ?え、小説?
か:小説だね。これは何だろうな。本屋に行って割とセンサーに引っかかった本を手に取ることってあると思うんだけど
あ:作者は知ってんの?
か:知らない
あ:全く?ジャケ買い的な?
か:面白そうだなって思って手に取ったんだけど、多分、何で手に取ったかっていうと、ラテンアメリカの文学ってのがあるじゃん。アルゼンチンとかスペイン語圏の。その辺の文学が好きなんだよね割と。ボルヘスだったりとか。そういうのが好きってのがあって、リャマサーレスもスペイン語の人だから
あ:ラテンアメリカ文学の特徴は何?どの辺がいいの?
か:ラテンアメリカ文学にもいろいろあるんだけど、マジックリアリズムってのもあるし、幻想文学もあるし、一言でいうなら……「変」なんですよ
あ:変(笑)
か:『百年の孤独』で言ったら、次々とあり得ないことが起きていくとかね。錬金術師が空を飛びはじめるとか、人が死んだら空から黄色い花が降ってくるとか。ボルヘスだったら謎のよく分からない、本に囲まれたバベルの図書館っていう図書館が存在するとかそういうちょっと変なところがあって
あ:へえー
百年の孤独 (Obra de Garc´ia M´arquez)
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か:じゃあ、なぜそもそもラテンアメリカ文学を手に取るようになったかというと、最初は多分ボルヘスなんだよね。
あ:きっかけはそこなの
か:大学生の時に読んで。多分どこかから勧められたんだと思うんだよね
あ:「ボヘスすげぇぞ」って
か:そうそう
あ:なんか文芸研究会みたいなサークルを作ってたんでしょ?確か
か:文芸同好会ね
あ:そういうところのツテとかなのかね。知り合い経由で
か:多分そうだね。俺は同期が三人いて、一人がミステリーとか怪奇小説が好きな人間だったんだよ。一人がSFが好きな人間で、一人がポストモダン文学が好きだったんだよね
あ:いい感じにバラけてるね
か:そう。だから三人からいい感じに「最近何が面白い」みたいな話を聞いてるんだよね。多分ボルヘスもそこから聞いたんじゃないかな
あ:なるほど
け:……っていう感じで、僕はフリオ・リャマサーレスを読んだわけ
あ:なるほど。次は僕ですね。三番目。あ、これは簡単だ。『有栖の乱読』。理由はあなたが読んでたから(笑)
か:僕からの(笑)。僕はどっから知ったかっていったら、さっき言った友人のKなんだよ
あ:あー、なるほど。そっから来てんだ。有栖川有栖そのものは、昔読んではいたんですよ。
け:ほう
あ:昔ね。横溝正史とかにハマってた時期に。何でミステリ小説にハマったかっていうと……何でだろう。小学校の時にいろんな本を読む中で、図書館でルパンシリーズとかを借りてて、そこら辺からミステリってジャンルに興味を持ちだして。あと今、一緒に飄々舎をやってる玉木くんがね、彼は僕より二年先を行くっていうジンクスがあるんですよ。
か:ほうほう。二年先って?
あ:あいつがハマったものを大体二年後くらいに僕がハマるの
か:なるほどね(笑)
あ:多分、いわゆる新本格の綾辻行人に僕がハマる二年前に彼がハマってるんだよね。で、彼がハマった時にすごいその話聞くわけ。「綾辻だよ」「館シリーズだよ」って。聞いてすぐはなんかシャクだから読めないんだけど、二年ぐらい経ったら読めるから、高校くらいで綾辻行人とかを読み始めて、そっから新本格・本格のミステリにハマっていくんですよね。で、その流れで有栖川有栖も読んだし、二階堂黎人とか。法月綸太郎はなんか合わなくて一冊くらしか読まなかったけど。有栖川有栖は短編集を読んだはず。ただ何を読んだかは覚えてないんだ
か:なるほど(笑)
あ:『ロシア紅茶の謎』とか『ブラジル蝶の謎』とか。ほら、クイーンの国名シリーズってあるじゃない。『エジプト十字架の謎』とか『ローマ帽子の謎』とか。あのシリーズの本歌取りみたいな感じでやってるわけじゃん。でも元々のシリーズがすでに国名ばっかりで覚えにくいわけじゃん
か:そうだね
あ:それをさらにパロってるから。しかも短編集だし。もう何を読んだか分からないんだ(笑)
か:なるほどね
あ:まあ、そんなわけで有栖川有栖は知ってたんだよね。で、あなたの読書メーターの感想を読んだのか、直接聞いたのか分からないけど、面白そうだなと思って。なんかさ、人が本を勧めてる本って好きだから。で、買ってみて、最近読んだと。途中に名作ミステリ100選みたいな部分があって、そこに僕めちゃくちゃポストイットの付箋を貼り付けてるからね。後で読もうと思って。もう本の真ん中から付箋がびろびろびろって(笑)。前にかみしの君が紹介してた久生十蘭も載ってたよ
か:あ、載ってたっけ?久生十蘭は本当に上手いよ
あ:っていう、『有栖の乱読』のルーツです
か:僕の三冊目はね、泉鏡花の『春昼後刻』っていう中編小説だね。このルーツはなんだろう……?
春昼(しゅんちゅう);春昼後刻(しゅんちゅうごこく) (岩波文庫)
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あ:便覧ですか?
か:便覧はある。俺の文学系の読書のルーツはほぼ便覧か、あと丸屋才一の『文学全集を立ち上げる』っていう本があって……
あ:いいですね!そういうやつ、そういうやつを聞きたいんですよ
か:これは海外と日本のあらゆる文学を三人ぐらいで集まって「俺らだけの最強の文学全集を作ろうぜ」っていうのを鼎談でしてんのね。この本に僕はけっこうインスパイアされていて、これもたぶんそうなんだよ。泉鏡花で何を選ぶかってなった時に「『春昼』はいいぞ」みたいな話になってて、「ああ、『春昼』は面白いんだなー」って印象に残ってたんだと思う
あ:泉鏡花ってどっちかっていうと便覧とか日本文学"史"に名前がある人ですよね
か:そうだね。で、『文学全集を立ち上げる』をなぜ僕が手に取ったかというと……
あ:ほう
か:たまたまね、大学の図書館に一回生の時に行って、今でも覚えてるんだけど同志社大学の京田辺の方の図書館に。京田辺の図書館って全然本がないのね
あ:そうなんすか(笑)古い大学だし多そうなのに
か:同志社女子の方には多いんだよ
あ:なんで(笑)同志社って本丸はどこですっけ
か:今出川
あ:そうか。京田辺のキャンパスってけっこう遠い方か。だったら本がないのもちょっと分かる気が
か:今は文系は全員今出川だけどね。で、その図書館をぶらぶらしてたら、たまたま文春文庫の所に『文学全集を立ち上げる』って本が置いてあって。当時は色々なことを知りたい時期だったから。文学に関して。それで手に取ったらめちゃくちゃ面白くて。それで自分でも買って……。それで文学系のネタを仕込んでたわけ
あ:やっぱり以外とみんな、それぞれ読書のバイブル的なものはあるんだね。どこから情報を取ってるかっていう
か:さっきの『有栖の乱読』みたいに作家が本を紹介してる本とかね
あ:人に本を勧められる時って、あんまり近い人に勧められるとちょっと読むまでに間ができる時があるんですよね。追っかけるように読むとしゃくっていうか。かみしのさんはもう存在を僕の一段上に置いてるので大丈夫なんですけど
か:上に置かれてるんだ(笑)
あ:仰ぎ見る感じで。「ははー」って。何か勧められても「ありがとうございます!」って
け:神託が(笑)
あ:でも自分の中で同じレベルだと思ってる友達がすごくハマってたり、すごく勧められると、変なプライドが邪魔をするんですよね。「俺はこいつより早くこの本を見つけられなかった。今から読んでもこいつにはもう追いつけない」って
か:分からないでもない(笑)
あ:その点、すでに仰ぎ見てる作家とかが本を勧めてもそういう感情が起こらないんですよね
か:なるほどね
ルーツ放談まだまだ続く!
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