飄々舎

京都で活動する創作集団・飄々舎のブログです。記事や作品を発表し、オススメの本、テレビ、舞台なども紹介していきます。メンバーはあかごひねひね、鯖ゼリー、玉木青、ひつじのあゆみ。

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かばんさんを待ちながら③

①はこちら

hyohyosya.hatenablog.com

 

 

かばんさんを待ちながら③

すぐ近くで恐ろしい声がひびきわたる。アライさんは人参を落としてしまう。

二人とも一瞬ぎくっとして硬直するが、すぐに逃げだそうとする。

途中でアライさんは立ち止まると引き返し、人参を拾って、待ちかねているフェネックのところに飛んでいく。

だがまた立ち止まり、とって返して、片方の靴を拾い上げ、フェネックの所に走り寄る。

二人は抱き合って、頭を相手の肩にうずめ、脅威に背を向けて待つ。

 

プリンセスとフルル、コウテイ出てくる。

フルルとコウテイが、首にかけた綱でプリンセスを導いて来る。

コウテイは重いトランクと、折りたたみ椅子と、弁当用バスケットを持ち、腕に外套をかけている。

フルルはぼんやりとしてラッキービーストを抱えている。

プリンセスは鞭を持っている。

 

プリンセス「ほら、もっと速くしなさい!あっ行き過ぎ行き過ぎ!後退!」

 

バタッ!

コウテイが大荷物もろとも倒れる。

 

フルル「ふるるー」

 

フェネックが一歩、コウテイの方に行きかける。

アライさんが袖を引っ張って止める。

 

フェネック「はなしてよー」

アライさん「静かにしてるのだ」

プリンセス「気を付けて!コウテイは知らない人には獰猛だから」

アライさん「このフレンズなのか?(ひそひそ)」

フェネック「なんのことだいー?」

アライさん「ほら……」

フェネック「ああ、かばんさんかー」

アライさん「そうなのだ」

プリンセス「わたしはプリンセスよ」

フェネック「違うみたいだねー」

アライさん「いま、かばんって言ったのだ!」

フェネック「言ってないよー」

アライさん「おまえはかばんさんじゃないのか?」

プリンセス「プリンセスだっていってるでしょ!ねえ、わたしの名前を聞いて、何か思い出さない?どう?」

 

アライさんとフェネックは互いに目で尋ね合う。

 

アライさん「プリンセス……プリンセス……」

フェネック「プリンセス……」

プリンセス「プウウウリイイインンンセエエエスウウウ」

アライさん「ああ、プリンセス……ええと……プリンセス……いや、思い出さないのだ」

フェネック「不親切ってあだ名のフレンズなら知ってるんだけどねー。とっても不親切なのさー」

 

プリンセス、威嚇するように近づく。

 

アライさん「実はアライさんたちはここに住んでるフレンズじゃないのだ!」

プリンセス「でもあなたたち、フレンズなのよね?見たところ私と同じ。このパークのけものフレンズよね」

フェネック「それはそうなんだけどさー」

プリンセス「かばんさんっていうのはだれ?」

アライさん「かばんさん?」

プリンセス「さっきわたしと間違えたじゃない」

フェネック「いやーまさかー、そんなことしてないよー」

プリンセス「だ・れ?」

フェネック「……ちょっとした知り合い、かなー」

アライさん「それは違うのだ。知ってるってほどでもないのだ」

フェネック「たしかにそうだねー。知り合いってほどじゃなかったよー。でも……」

アライさん「アライさんなんて、会っても分からないくらいなのだ」

プリンセス「でもわたしと間違えたじゃない」

アライさん「それが実は……薄暗がりで……疲れて……すっかり弱って……待ちかねていて……実は……そうじゃないかって……一時は……」

フェネック「アライさんの言うことはちゃんと聞かなくていいよー」

プリンセス「待ちかねて?ってことはあなたたち、そのフレンズを待っていたの?」

フェネック「まーそのー」

プリンセス「この、私たちのナワバリで?」

フェネック「悪気があったわけじゃないんだよー」

アライさん「むしろ善意なのだ!」

プリンセス「道はフレンズみんなのもの」

フェネック「わたしたちもそう話し合っててさー」

プリンセス「悲しいけど、そういうことになってしまっているわ」

アライさん「しかたがないのだ」

プリンセス「この話はやめましょうか。起きなさいコウテイ!」

 

プリンセスが綱を引く

 

プリンセス「この子、転ぶたびに居眠りをするのよ。立ちなさい!ドスケベペンギン!後退!止まりなさい!回れ右!……あなたたちと会えてうれしいわ。こころの底から。ほら!もっと近くに来なさい二人とも!」

 

フルル、コウテイ、近寄る。

 

プリンセス「なにしろこうして一人で歩いていると、道が長くって。それももう、もう……六時間よ。わき目もふらずに、フレンズにも出会わずに。寒いわ!」

 

コウテイがトランクを置き、プリンセスに近寄ってコートをわたし、さがって、またトランクを持つ。

フルルは何もせず見ている。

 

プリンセス「これも持ちなさい!」

 

プリンセスがコウテイに鞭を突きつける。コウテイは近寄るが、両手がふさがっているので、かがむと、鞭を口でくわえ、さがる。

フルルは何もせず見ている。

プリンセスはコートを着ようとする。

 

プリンセス「着せて!」

 

コウテイは荷物をしっかり置くと、近寄ってプリンセスがコートを着るのを助け、さがり、また荷物を持つ。

フルルは何もせず見ている。

 

プリンセス「底冷えのする陽気ね」

 

プリンセス、コートのボタンをかけ終えると、かがみ、自分の体を点検し、身をおこす。

 

プリンセス「鞭!」

 

コウテイ、近寄って身をかがめる。プリンセスはその口から鞭をひったくる。コウテイ、さがる。

フルルは何もせず見ている。

 

プリンセス「見ての通り、わたしは長いあいだ他のフレンズと会わないことにがまんできないのよ。それがわたしにそれほど似てないフレンズでもね。足が疲れたわ!」

 

コウテイ、トランクとバスケットを置き、プリンセスに近寄って折り畳みの椅子を広げ、地面に置いて、退き、再びトランクとバスケットを持つ。

フルルは何もせず見ている。

 

プリンセス「もっと近く!」

 

コウテイ、トランクとバスケットを置き、近寄って椅子を動かし、退いて、トランクとバスケットを持つ。

フルルは何もせず見ている。

プリンセスは座って、鞭の柄の先をコウテイの胸にあてがい、押す。

 

プリンセス「後退!」

 

コウテイ、後ろにさがる。

 

プリンセス「もっとよ!」

 

コウテイ、もっとさがる。

 

プリンセス「止まって!」

 

コウテイ、止まる。

 

プリンセス「ご迷惑じゃなければ、私たちが出かける前に、しばらくご一緒させてもらっていいかしら。お腹がすいたわ!」

 

コウテイ、前に出て、バスケットを渡し、さがる。

フルルは何もせず見ている。

 

プリンセス「広々とした外の空気を吸うとお腹がすくわね」

 

プリンセス、バスケットの中から水のボトルとジャパリまんをいくつか出す。

 

プリンセス「バスケット!」

 

コウテイ、近づき、バスケットを取って、下がり、じっとしている。

 

プリンセス「もっと遠く!」

 

コウテイ、さらにさがる。

 

プリンセス「そこよ!」

 

コウテイ、止まる。

フルルはずっと何もせず見ている。

 

プリンセス「コウテイは臭いからね。さて、私たちの健康を祝して、いただきます!」

 

プリンセス、食べ始める。

アライさんとフェネックはだんだん大胆になり、コウテイとフルルのまわりを回り始める。

そして、いたるところから、観察する。

プリンセスはジャパリまんを食べ、ふくろを捨てる。

コウテイはトランクが地面に触れるぎりぎりまでゆっくり体を曲げるが、急にまた体を伸ばす。立ったまま舟を漕いでいる。

フルルはなにもせずじっと立っている。

 

アライさん「いったいどうしたのだ?」

フェネック「疲れ切っているみたいだねー」

アライさん「どうして荷物を置かないのだ?」

フェネック「わたしに聞いたってわからないよー」

アライさん「話しかけてみるのだ」

フェネック「アライさん見てごらんー」

アライさん「何なのだ?」

フェネック「首だよー」

アライさん「なんにも見えないのだ」

フェネック「こっちへきてごらんよー」

アライさん「ほんとなのだ!」

フェネック「すりむけてるねー」

アライさん「綱なのだ」

フェネック「あんまりこするからだよー」

アライさん「無理もないのだ」

フェネック「結び目だしねー」

アライさん「どうしようもないのだ」

 

二人はまた、観察を始める。コウテイの顔のところで止まる。

 

フェネック「なかなかの美人さんじゃないかー」

アライさん「そうなのか?」

フェネック「ちょっとカッコイイ系かなー」

 

アライさんとフェネック、今度はフルルの方を見る。

 

アライさん「よだれを流しているのだ」

フェネック「無理もないさー」

アライさん「泡も吹いているのだ」

フェネック「こっちの子は少しおバカなのかなー」

アライさん「アホなのだ」

フェネック「そっちの子はさっきから息をきらせているよー」

アライさん「あたりまえなのだ」

フェネック「でもこっちの子は何もしないんだよー」

アライさん「それもあたりまえなのだ」

フェネック「それから、この目さー」

アライさん「目がどうかしたのか?」

フェネック「飛び出しているんだー」

アライさん「アライさんにはつぶれかかってるように見えるのだ」

フェネック「さっぱりわからないねー。ねーアライさーん。二人に何か聞いてみてよー」

アライさん「大丈夫なのか?」

フェネック「どうってことないさー」

アライさん「……あの、もしもし」

フェネック「もっとはっきり話さないとー」

アライさん「あの、もし……」

プリンセス「ほっときなさいよ。休みたがってるのが分からない?バスケット!」

 

コウテイは動かない。

プリンセスは歯ブラシをとりだし、歯を磨きはじめる。

アライさんは地面に捨てられたジャパリまんのふくろを見つけて、むさぼるように見つめる。

フルルは何もせず立っている。

 

プリンセス「バスケット!」

 

コウテイは動かない。

プリンセスは怒って、綱を引く。

 

プリンセス「バスケット!」

 

コウテイは転びかかって気がつき、近寄るとバスケットに水のボトルを入れ、自分の場所に戻って、ふたたびもとの様子にもどる。

アライさんはまだふくろを見つめている。

プリンセスは歯を磨いている。

 

プリンセス「しかたがないわね。もともとコウテイの仕事じゃないし」

アライさん「あの……」

プリンセス「なに?」

アライさん「あの……そのジャパリまんのふくろ……もういらないのか……?」

フェネック「アライさーん。少し待てないのかいー?」

プリンセス「いや、あたりまえよね。わたしはもう、ふくろに用はないわ。でも……原則としてふくろは荷物持ちのものになることになっているの。だから、コウテイに聞いてみないと。さあ、聞きなさい。何も怖がることはないわ。

 

アライさんはコウテイの方に行き、その前に立ち止まる。

 

アライさん「もしもし、あの……」

 

コウテイは反応を示さない。プリンセスは鞭をならす。コウテイ、頭を起こす。

 

プリンセス「話しかけられてるのよ!返事しなさいこのドスケベペンギン!さあ、どうぞ」

アライさん「お、おまえは、あのふくろ、いるのか?」

 

コウテイ、長いことアライさんを見つめる。

 

プリンセス「コウテイ!返事をしなさい!いるの?いらないの?……ふう、ふくろはあなたがもらっていいみたいよ?」

 

アライさん、ふくろに飛びつき、拾うが速いか内側をぺろぺろなめ始める。

 

フェネック「アライさん!はずかしいからやめなよー!」

 

沈黙。

 

アライさん、なめるのをやめ、フェネックとプリンセスとかわるがわる眺める。

フェネック、だんだん気まずそうになる。

 

プリンセス「なにか言いたいことがあるみたいね」

フェネック「仮にもフレンズをこんな扱いかたするなんて、わたしは、とても……だって、フレンズだよー……恥も情けもないみたいじゃないかー」

アライさん「そ、そうなのだ!つまり、じ、じんけんじゅーりんなのだ!」

プリンセス「人じゃないけれど、なかなか手厳しいわね。フレンズ化してどれくらいたつのかしら?5年?10年?ねえあなた、このフレンズさん、いくつなの?」

アライさん「本人に直接聞けばいいのだ」

プリンセス「失礼したわね。そろそろお別れしましょうか。おつきあいいただいてありがとう。あ、あなたたちも歯、磨く?あんまり磨き過ぎもよくないらしいけど。ま、あなたたちは興味ないかしら?フレンズは別に磨かなくても平気だしね。ところで。わたしは今こうして立ち上がったのだけれど、うまく座るにはどうしたらいいかしら?いかにも自然に……その……崩れ落ちるという感じではなくて……え?何?……何も言わなかった?……そうね、いいわ、えっと……」

 

プリンセス、考える。

 

アライさん「おいしかったのだー!」

 

アライさん、ふくろを捨てる。

 

フェネック「行こうかー」

アライさん「もう行くのか?」

プリンセス「椅子!」

 

綱を引く、コウテイ、椅子を動かす。

 

プリンセス「もっと!そこよ!」

 

プリンセスがふたたび座り、コウテイはさがってトランクとバスケットを持つ。

 

プリンセス「これでまた落ち着けたわ!」

フェネック「もう行こうよー」

プリンセス「わたしはあなたたちを追い立てるつもりはないわよ。もうしばらくここにいなさい。損にはならないから」

アライさん「どうせ暇なのだ」

プリンセス「二回目磨いてもきれいになってる気がしないわねー。まあ、最初にくらべれば、だけど」

フェネック「わたしは行くよー」

プリンセス「この子、わたしがいるのががまんできないみたいね。たしかにわたしは他のフレンズよりすこし変わってるかもしれないけど、それが理由になるのかしら?よく考えなさい。あなたが今、行ってしまったとして、まだ日中じゃない。それで、どうなるの?その……かびんさん?やばんさん?……とにかく、わたしの言うことが分かるでしょ?あなたの未来がかかっているそのフレンズ。というより、近い将来、なのかしら。あなたたちの」

アライさん「このフレンズの言うとおりなのだ」

フェネック「よくわかるねー、そんなことがー」

プリンセス「やっとまた言葉をかけてくれたわね。そのうちまた親しくなれるかもしれないわね、わたしたち」

アライさん「ところでどうして、あの子は荷物を置かないのだ?」

プリンセス「わたしも、あなたたちの待ってるそのフレンズに会えたらうれしいと思ってるわ。いろんなフレンズに会えるのって幸せよ。どんなにつまらないフレンズからも、必ず何か教えられる。それだけ心が豊かになるの。自分の幸福をよりよく味わえるのよ。あなたたちだって、わたしに何かを与えてくれたのかもしれないわ」

アライさん「どうして、あの子は荷物を置かないのだ?」

プリンセス「でも、まさか、そんなことはないんじゃないかしら?」

アライさん「アライさんは質問をしているのだー!」

プリンセス「質問?だれがするの?何を質問するの?ついさっきまであなたたち、わたしと話すのだって怖がってたじゃない。それが今度は質問までするのね。いまに何をされるか分からないわ」

フェネック「アライさんの質問を聞いてくれる気みたいだよー」

アライさん「え?」

フェネック「聞いていいみたいだよー」

アライさん「聞くって、何をだ?」

フェネック「どうして荷物を置かないか、でしょー」

アライさん「そうなのだ。まったく不思議なのだ」

フェネック「だから、聞いてみなってー」

プリンセス「整理させてちょうだい。あなたたちは、どうしてコウテイが荷物を置かないかを聞きたいのよね?」

フェネック「そうそう」

プリンセス「間違いないわね?あなたも?」

 

アライさんはコウテイのまわりを回っている。

 

アライさん「この子、動物みたいな息なのだー」

プリンセス「その質問に答えるわ。……ちょっとあなた、静かにしてくれない?気が散るから」

フェネック「アライさーん、こっちに来なよー」

アライさん「何なのだ?いったい」

フェネック「お話が始まるのさー」

 

【つづく】

 

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