かばんさんを待ちながら⑥
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かばんさんを待ちながら⑥
フェネックはフルルのリボンを持ち、眺める
プリンセス「こっちに渡して!」
プリンセスはフェネックの手からリボンをひったくり、地面に投げつけ、その上に飛び乗る。
プリンセス「こうしてしまえば、もう考えたりしないでしょう!」
フェネック「でも方角が分からなくならないかいー?」
プリンセス「方角はわたしが教えるわ」
プリンセス、フルルを蹴る
プリンセス「立ちなさい!キチガイペンギン!」
アライさん「死んだかもしれないのだ」
フェネック「殺す気なのかいー?」
プリンセス「立ちなさい!ろくでなし!……ごめんなさい、ちょっと手を貸してくれないかしら?」
フェネック「でも、どうすればいいんだいー?」
プリンセス「引っ張り上げるの」
アライさんとフェネックがフルルを立たせ、ちょっと支えているが、やがて放す。フルル、再び倒れる。
アライさん「わざとやってるのだ」
プリンセス「支えてなければいけないわ……さあ、引っ張り上げて!」
アライさん「アライさんはもうごめんなのだ」
フェネック「まあまあ、もう一度やってみようよー」
アライさん「アライさんたちの仕事じゃないのだー」
フェネック「まあいいじゃないかー」
二人はフルルを起こし、支える。
プリンセス「放さないで!」
アライさんとフェネック、ふらふらする。
プリンセス「ふらふらしないで!」
プリンセス、フルルが落としていたラッキービーストを拾い、フルルの方に持って来る。
プリンセス「しっかり押さえて!」
フルルにラッキービーストを持たせるが、すぐに放してしまう。
プリンセス「放しちゃだめ!」
プリンセス、また始める。ラッキービーストとの接触で、フルルは少しずつ気を取り戻し、ついにはその指が、ラッキービーストをつかむ。
プリンセス「よし!放してもいいわ!」
アライさんとフェネックがフルルから離れる。
フルルは倒れかかり、よろめき、からだを折るが、ラッキービーストを手にしたまま、どうにか立っている。
プリンセス、一歩下がり、鞭を鳴らす。
プリンセス「前進!」
横で踊っていたコウテイ、前に出る。
フルル「ふるるー」
プリンセス「後退!」
コウテイ、後ろに下がる。
フルル「ふるるー」
プリンセス「回れ右!」
コウテイ、回る。
フルル「ふるるー」
プリンセス「これでいいわ。もう歩けるでしょう。二人ともありがとう。ではこれで」
プリンセス、ポケットを探る。
プリンセス「二人とも元気でね」
プリンセス、ポケットを探る。
プリンセス「元気で……」
プリンセス、ポケットを探る。
プリンセス「あれ、時計をどこにやったかしら……なんてこと!秒針のついた……ねえ、あなたたち、本物の時計よ!昔、友達のフレンズにもらったの!……落ちたのかもしれないわ……」
プリンセス、地面をさがす。
アライさんもフェネックもそれにならう。
プリンセス、足で、落ちているフルルのリボンをひっくり返してみる。
プリンセス「冗談じゃないわ!」
フェネック「別の場所に入れてるんじゃないー?」
プリンセス「なるほど」
プリンセス、体を折って頭を腹に近づけ、聞く。
プリンセス「何も聞こえないわ!ねえ、ちょっと聞いてみてくれない?」
アライさんとフェネック、プリンセスの腹に耳をあてる。
プリンセス「ねえ?どう?二人とも、チクタクが聞こえないかしら?」
フェネック「ちょっと黙っててよー」
三匹とも、からだを曲げて、聞く。
アライさん「なんか聞こえるのだ」
プリンセス「どこ?」
フェネック「それは心臓だよー」
プリンセス「なによそれ!」
フェネック「黙って!」
三人、聞く。
アライさん「止まっちゃったんじゃないか?」
三人とも、からだを伸ばす。
プリンセス「何か臭うわね。二人うち、どっちが臭いのかしら」
アライさん「フェネックは口が、アライさんは足が少し臭いのだ」
プリンセス「では、おいとまするわ」
アライさん「時計はいいのか?」
プリンセス「楽屋にでも置いてきたんだわ、きっと」
アライさん「そうか。じゃあ、さよならなのだ」
プリンセス「さようなら」
フェネック「さようならー」
アライさん「さよならなのだ」
沈黙、誰も動かない。
プリンセス「そして、ありがとう」
フェネック「こちらこそありがとうー」
プリンセス「いえ、とんでもないわ」
アライさん「いや、本当なのだ」
プリンセス「いやいや、どうして」
フェネック「本当だよー」
アライさん「とんでもないのだー」
沈黙。
プリンセス「どうも……立ち去りにくいわね……」
アライさん「これが世の中なのだ」
プリンセスは身体をかえして、フルルとコウテイから遠ざかり、綱をのばしながら少しずつ離れていく。
フェネック「方向が違うよー」
プリンセス「はずみがいるのよ」
プリンセス、綱がいっぱいに伸びきったところで止まると、振り返って叫ぶ。
プリンセス「少し離れて!コウテイ、前進!」
コウテイ、フルル、動かない。
アライさん「前進!」
フェネック「前進!」
プリンセス、鞭を鳴らす。コウテイはゆらめく。
プリンセス「もっと速く!もっと速く!もっと速く!……」
コウテイとフルルが進む。プリンセス、コウテイとフルルの後に続いてさっきと逆方向に進み、去っていく。
アライさんとフェネックは手を振る。
プリンセス、立ち止まり振り返る。
綱がピンと張り、コウテイが転ぶ。
プリンセス「腰掛け!」
フェネックが椅子を取りに行き、プリンセスに渡す。それをプリンセスはコウテイの方に投げる。
プリンセス「さようなら!」
アライさん「さよならなのだー」
フェネック「さようならー」
プリンセス「立ちなさい!ドスケベペンギン!前進!さようなら!もっと速く!ドスケベ!ほら!さようなら!……」
コウテイ、フルル、プリンセス、去っていく。
沈黙。
フェネック「おかげで時間が経ったねー」
アライさん「そうでなくたって時間は経つのだ」
フェネック「うん。でも、もっとゆっくりだったろうよー」
間。
アライさん「今度は何をするのだ?」
フェネック「分からないよー」
アライさん「もう行くのだ」
フェネック「だめだよー」
アライさん「なぜなのだ?」
フェネック「かばんさんを待つのさー」
アライさん「ああ、そうだったのだ」
間。
フェネック「さっきのフレンズたち、ずいぶん変わったねー」
アライさん「誰が?」
フェネック「今の三匹だよー」
アライさん「そうなのだ。少しおしゃべりするのだ」
フェネック「変わっただろー?ずいぶん。あの三匹はさー」
アライさん「そうかもしれないのだ。変われないのはアライさんたちだけのだ」
フェネック「かもしれない?確かだよ、これは。アライさんもよく見ただろうー?」
アライさん「見たのだ。でも、アライさんはあのフレンズのこと知らないのだ」
フェネック「そんなことないよー。知ってるじゃないかー」
アライさん「嘘なのだ」
フェネック「知ってるって言ってるじゃないかー。アライさんは何でもすぐ忘れてしまうねー。もっとも、あれが同じフレンズじゃないとしたら別だけどさー」
アライさん「その証拠に、むこうもこっちが分からなかったのだ」
フェネック「それだけじゃ何とも言えないよー。わたしの方だって、むこうが分からないようなふりをしたしさー。それに、わたしたちのことは誰にも分からないよー」
アライさん「もういいのだ!問題はーーあいたっ!いたたたたた!痛いのだーー!」
フェネック「同じフレンズじゃないとしたら別だけどさー(身じろぎもせず)」
アライさん「フェネックー、今度はこっちの足が痛いのだーー」
アライさん、足を引きずりながら最初に座っていた方へ行く。
そこで、少し離れた草むらの中から声がする。
フレンズの声「あの!」
【つづく】
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