飄々舎

京都で活動する創作集団・飄々舎のブログです。記事や作品を発表し、オススメの本、テレビ、舞台なども紹介していきます。メンバーはあかごひねひね、鯖ゼリー、玉木青、ひつじのあゆみ。

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かばんさんを待ちながら⑥

初回&前回記事はこちら↓

 

hyohyosya.hatenablog.com

hyohyosya.hatenablog.com

 

かばんさんを待ちながら⑥

 

フェネックはフルルのリボンを持ち、眺める

 

プリンセス「こっちに渡して!」

 

プリンセスはフェネックの手からリボンをひったくり、地面に投げつけ、その上に飛び乗る。

 

プリンセス「こうしてしまえば、もう考えたりしないでしょう!」

フェネック「でも方角が分からなくならないかいー?」

プリンセス「方角はわたしが教えるわ」

 

プリンセス、フルルを蹴る

 

プリンセス「立ちなさい!キチガイペンギン!」

アライさん「死んだかもしれないのだ」

フェネック「殺す気なのかいー?」

プリンセス「立ちなさい!ろくでなし!……ごめんなさい、ちょっと手を貸してくれないかしら?」

フェネック「でも、どうすればいいんだいー?」

プリンセス「引っ張り上げるの」

 

アライさんとフェネックがフルルを立たせ、ちょっと支えているが、やがて放す。フルル、再び倒れる。

 

アライさん「わざとやってるのだ」

プリンセス「支えてなければいけないわ……さあ、引っ張り上げて!」

アライさん「アライさんはもうごめんなのだ」

フェネック「まあまあ、もう一度やってみようよー」

アライさん「アライさんたちの仕事じゃないのだー」

フェネック「まあいいじゃないかー」

 

二人はフルルを起こし、支える。

 

プリンセス「放さないで!」

 

アライさんとフェネック、ふらふらする。

 

プリンセス「ふらふらしないで!」

 

プリンセス、フルルが落としていたラッキービーストを拾い、フルルの方に持って来る。

 

プリンセス「しっかり押さえて!」

 

フルルにラッキービーストを持たせるが、すぐに放してしまう。

 

プリンセス「放しちゃだめ!」

 

プリンセス、また始める。ラッキービーストとの接触で、フルルは少しずつ気を取り戻し、ついにはその指が、ラッキービーストをつかむ。

 

プリンセス「よし!放してもいいわ!」

 

アライさんとフェネックがフルルから離れる。

フルルは倒れかかり、よろめき、からだを折るが、ラッキービーストを手にしたまま、どうにか立っている。

プリンセス、一歩下がり、鞭を鳴らす。

 

プリンセス「前進!」

 

横で踊っていたコウテイ、前に出る。

 

フルル「ふるるー」

 

プリンセス「後退!」

 

コウテイ、後ろに下がる。

 

フルル「ふるるー」

 

プリンセス「回れ右!」

 

コウテイ、回る。

 

フルル「ふるるー」

 

プリンセス「これでいいわ。もう歩けるでしょう。二人ともありがとう。ではこれで」

 

プリンセス、ポケットを探る。

 

プリンセス「二人とも元気でね」

 

プリンセス、ポケットを探る。

 

プリンセス「元気で……」

 

プリンセス、ポケットを探る。

 

プリンセス「あれ、時計をどこにやったかしら……なんてこと!秒針のついた……ねえ、あなたたち、本物の時計よ!昔、友達のフレンズにもらったの!……落ちたのかもしれないわ……」

 

プリンセス、地面をさがす。

アライさんもフェネックもそれにならう。

プリンセス、足で、落ちているフルルのリボンをひっくり返してみる。

 

プリンセス「冗談じゃないわ!」

フェネック「別の場所に入れてるんじゃないー?」

プリンセス「なるほど」

 

プリンセス、体を折って頭を腹に近づけ、聞く。

 

プリンセス「何も聞こえないわ!ねえ、ちょっと聞いてみてくれない?」

 

アライさんとフェネック、プリンセスの腹に耳をあてる。

 

プリンセス「ねえ?どう?二人とも、チクタクが聞こえないかしら?」

フェネック「ちょっと黙っててよー」

 

三匹とも、からだを曲げて、聞く。

 

アライさん「なんか聞こえるのだ」

プリンセス「どこ?」

フェネック「それは心臓だよー」

プリンセス「なによそれ!」

フェネック「黙って!」

 

三人、聞く。

 

アライさん「止まっちゃったんじゃないか?」

 

三人とも、からだを伸ばす。

 

プリンセス「何か臭うわね。二人うち、どっちが臭いのかしら」

アライさん「フェネックは口が、アライさんは足が少し臭いのだ」

プリンセス「では、おいとまするわ」

アライさん「時計はいいのか?」

プリンセス「楽屋にでも置いてきたんだわ、きっと」

アライさん「そうか。じゃあ、さよならなのだ」

プリンセス「さようなら」

フェネック「さようならー」

アライさん「さよならなのだ」

 

沈黙、誰も動かない。

 

プリンセス「そして、ありがとう」

フェネック「こちらこそありがとうー」

プリンセス「いえ、とんでもないわ」

アライさん「いや、本当なのだ」

プリンセス「いやいや、どうして」

フェネック「本当だよー」

アライさん「とんでもないのだー」

 

沈黙。

 

プリンセス「どうも……立ち去りにくいわね……」

アライさん「これが世の中なのだ」

 

プリンセスは身体をかえして、フルルとコウテイから遠ざかり、綱をのばしながら少しずつ離れていく。

 

フェネック「方向が違うよー」

プリンセス「はずみがいるのよ」

 

プリンセス、綱がいっぱいに伸びきったところで止まると、振り返って叫ぶ。

 

プリンセス「少し離れて!コウテイ、前進!」

 

コウテイ、フルル、動かない。

 

アライさん「前進!」

フェネック「前進!」

 

プリンセス、鞭を鳴らす。コウテイはゆらめく。

 

プリンセス「もっと速く!もっと速く!もっと速く!……」

 

コウテイとフルルが進む。プリンセス、コウテイとフルルの後に続いてさっきと逆方向に進み、去っていく。

アライさんとフェネックは手を振る。

プリンセス、立ち止まり振り返る。

綱がピンと張り、コウテイが転ぶ。

 

プリンセス「腰掛け!」

 

フェネックが椅子を取りに行き、プリンセスに渡す。それをプリンセスはコウテイの方に投げる。

 

プリンセス「さようなら!」

アライさん「さよならなのだー」

フェネック「さようならー」

プリンセス「立ちなさい!ドスケベペンギン!前進!さようなら!もっと速く!ドスケベ!ほら!さようなら!……」

 

コウテイ、フルル、プリンセス、去っていく。

沈黙。

 

フェネック「おかげで時間が経ったねー」

アライさん「そうでなくたって時間は経つのだ」

フェネック「うん。でも、もっとゆっくりだったろうよー」

 

間。

 

アライさん「今度は何をするのだ?」

フェネック「分からないよー」

アライさん「もう行くのだ」

フェネック「だめだよー」

アライさん「なぜなのだ?」

フェネック「かばんさんを待つのさー」

アライさん「ああ、そうだったのだ」

 

間。

 

フェネック「さっきのフレンズたち、ずいぶん変わったねー」

アライさん「誰が?」

フェネック「今の三匹だよー」

アライさん「そうなのだ。少しおしゃべりするのだ」

フェネック「変わっただろー?ずいぶん。あの三匹はさー」

アライさん「そうかもしれないのだ。変われないのはアライさんたちだけのだ」

フェネック「かもしれない?確かだよ、これは。アライさんもよく見ただろうー?」

アライさん「見たのだ。でも、アライさんはあのフレンズのこと知らないのだ」

フェネック「そんなことないよー。知ってるじゃないかー」

アライさん「嘘なのだ」

フェネック「知ってるって言ってるじゃないかー。アライさんは何でもすぐ忘れてしまうねー。もっとも、あれが同じフレンズじゃないとしたら別だけどさー」

アライさん「その証拠に、むこうもこっちが分からなかったのだ」

フェネック「それだけじゃ何とも言えないよー。わたしの方だって、むこうが分からないようなふりをしたしさー。それに、わたしたちのことは誰にも分からないよー」

アライさん「もういいのだ!問題はーーあいたっ!いたたたたた!痛いのだーー!」

フェネック「同じフレンズじゃないとしたら別だけどさー(身じろぎもせず)」

アライさん「フェネックー、今度はこっちの足が痛いのだーー」

 

アライさん、足を引きずりながら最初に座っていた方へ行く。

そこで、少し離れた草むらの中から声がする。

 

フレンズの声「あの!」

 

【つづく】