飄々舎

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横溝正史「八つ墓村」はやっぱりラノベっぽい

どうも。あかごひねひねです。今日は八つ墓村のことを書きます。

 

八つ墓村 (角川文庫)

八つ墓村 (角川文庫)

 

 

「八つ墓村」はラノベ的だと、僕はこれまで何度か言ってきました。同様の意見はネット上でもよく見かけますし。今回はそのことをすこし長めに書きたいと思います。

実写化と原作は違う

まず最初に言いたいのは、「八つ墓村」という作品を映画やドラマでしか見たことが無い人には、これから書く話はあまりピンとこないだろうということ。まず原作を読んでもらいたい。
僕は八つ墓村が映像化されたものを2作品しか知らないのであまり大きなことを言えないんですけど、その2作品ともに原作におけるヒロインである知恵遅れ気味の親戚「典ちゃん」は出てきませんでしたし、なぜか主人公に好意を持つ体の弱い義理の姉も出てきませんでした。
そもそも、「八つ墓村」に限らず、小説の映像化というのは否応無く一定の「リアル」感覚が付されてしまうように思います。
ライトノベルとは、ある「お約束」のようなものの上に成り立った、現実とは若干位相のズレた世界です。この絶妙なズレを映像化する技術が出てきたのは、我々の身体にマンガ・ゲーム的感覚が染み込んだ、ごく最近になってからではないでしょうか。
「デスノート」が40年前に映画化されていたら。「暗殺教室」が40年前に映画化されていたら。その作品はどんな風だったでしょう。恐らく、近年行われた実写化以上に人の「死」というものがクローズアップされ、それはよりホラー・スプラッタ的ないわゆる「怪奇」と名が付くような作品として世に出たのではないでしょうか。それこそが「八つ墓村」のたどった道なのです。
つまり、マンガ・ゲーム的感覚が人々の中に存在しなかった時代に映像化された「八つ墓村」は、当時まだそんな言葉は無いが「ライトノベル的」要素が削り取られ、私たちの世界と地続きの世界の話として描かれてしまった。
そして、そもそも「八つ墓村」ひいては横溝正史は角川による金田一耕助シリーズの映画化によってメジャーになった作品・作家です。この先、「八つ墓村」の作品イメージがラノベ方向に覆る可能性は低いと思われます。
だからこそ「八つ墓村」を映像でしか見たことの無い人は、ぜひ原作を読んでみて欲しいのです。

実はハーレムもの

「八つ墓村」といえば、おどろおどろしい、血塗られたストーリー展開のイメージでしょう。でも、「八つ墓村」って実は一種のハーレムものの特徴を備えているのです。
そもそも「八つ墓村」の物語は、主人公の寺田辰弥の元に美しい女性が現れて、彼がとある田舎の名家の跡取りだと知らされることから始まります。
この美人でバツイチの女性は美也子というのですが、彼女は田舎に似合わぬモダンな女性で、知らない土地、それも暮らしたことのない田舎に赴く主人公は物語の序盤、村で唯一都会的な感性を持つ社交的な美也子に淡い好意を寄せるんですね。そんな主人公に対して美也子も優しく相手をする。この「八つ墓村」をハーレムものと見た場合、この美也子が一人目のヒロインです。
二人目のヒロインは主人公の姉の春代です。この春代という女性は大人になってから突然現れた弟に会った瞬間からなぜか恋をしています。
ハーレムものの特徴に主人公がモテる理由が特に無いというのがありますが、この春代はまさにその典型で、特に理由無くなぜか最初から最後まで主人公のことを愛しています。おまけに体が弱くて病気がち。兄弟の間の恋は許されないという意識から表だって主人公にべたべたしたりはしないんですが、折に触れて顔を赤らめるし、嫉妬で柄にもなく美也子の悪口を言っちゃったりします。まるでマンガのキャラみたいです。
三人目のヒロインは「典ちゃん」こと親戚の典子。この子も主人公が八つ墓村に着いてから出会う女性で、主人公のことを「お兄さま」と呼んで慕います。繰り返しますが「お兄さま」でですよ。この子が物語の後半、主人公と行動を共にする、「八つ墓村」のメインヒロインです。
この典子は出自が特殊で、八つ墓村の連続殺人事件の発端である27年前の多治見要蔵による村人32人殺しの直後に早産で産まれていいます。その影響で年齢は27歳と、主人公の辰弥とほぼ同じなのですが、外見は18、19歳ほどにしか見えず、言動もまるで10代の無垢な少女のようなのです。
この典子も、特に大した理由もなく主人公のことが好きになり、それも天真爛漫な典子は「お兄さまのこと好きよ」などと本人に対して好意を隠そうともしません。
だいたい、実年齢・外見・言動にギャップを持たせてそこに一種のインモラルな魅力を演出するのは、近年のマンガやアニメの常套手段です。いわゆる「ロリババア」キャラなどはその典型と言えるでしょう。「八つ墓村」は1949年にすでにそれをやってのけているのです。

推理小説かと思いきや宝探しもの

八つ墓村といえば連続殺人事件を金田一耕助が解決する推理小説というイメージが強いですが、「鍾乳洞の奥に隠された落ち武者の財宝」が物語の大きな要素のひとつとして存在します。
その鍾乳洞の入り口のひとつは主人公が住む多治見家に隠されており、主人公は夜な夜な鍾乳洞を探検します。物語の途中からは典子も一緒です。
しかも、その鍾乳洞には場所によって名前が付いているんですけど、その名前がまた、何とも中二臭い。
曰く、「竜の顎(あぎと)」「木霊の辻」「鬼火の淵」「狐の穴」
ますますラノベっぽいです。

都合のよいラスト

そして、この物語の最後は、(殺人事件の犯人はネタバレになるから言わないですが)主人公がその鍾乳洞の奥の財宝を手に入れ、かわいい典ちゃんとも結ばれてハッピーエンド!なのです。

ライトノベルは読む側の願望を主人公に投影してして快楽を与える傾向が強いジャンルです

主人公が特に理由もなくモテるハーレムもの。主人公が特に理由もなくめちゃくちゃ能力が高い「俺tueeee!」系。最近はその派生として主人公が異世界に転生して、現実世界のありきたりな知識や技術を駆使してその世界で無双する異世界ものにも人気があるみたいです。

八つ墓村も、そうなのです。典子かわいい付き合いたい。鍾乳洞冒険したい。財宝欲しい。小説を読みながら読者が望むことを、主人公は叶えていきます。

ライトノベルが好きな人は是非是非、横溝正史の八つ墓村を読んでもらいたいです。
時間は三倍くらいかかるかもしれませんが、おもしろいですよ。

それでは、また。

 

八つ墓村 (角川文庫)

八つ墓村 (角川文庫)

 

 

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