飄々舎

京都で活動する創作集団・飄々舎のブログです。記事や作品を発表し、オススメの本、テレビ、舞台なども紹介していきます。メンバーはあかごひねひね、鯖ゼリー、玉木青、ひつじのあゆみ。

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かばんさんを待ちながら①

企画紹介↓

hyohyosya.hatenablog.com

 

かばんさんを待ちながら①

どこかのちほー。一本の木。

夕暮れ。

アライさんが道端に座って、靴を片方、脱ごうとしている。

ハアハア言いながら、夢中になって両手で引っ張る。

力尽きてやめ、肩で息をつきながら休み、そしてまた始める。

同じことの繰り返し。

フェネック、出てくる。

 

アライさん「どうにもならないのだ……」

 

フェネック、ぎくしゃくと近づく。

 

フェネック「いやいや、そうかもしれないねー。いや、そんな考えにとりつかれてはいけないと思ってわたしは、長いこと自分に言い聞かせてきたんじゃないかー。まだなにもかもやってみたわけじゃないじゃない。また戦いはじめたところじゃないかー」

 

フェネック、アライさんに気付く。

 

フェネック「おや、やあ、アライさーん。またそこにいるんだねー」

アライさん「それはどうか分からないのだ」

フェネック「また会えてうれしいよー。もう行っちゃったきりだと思ってたよー」

アライさん「アライさんもなのだ!」

フェネック「そうだね、立ってよアライさん。ひとつ抱擁をしようー」

アライさん「そんなのはあとにするのだ!」

 

沈黙

 

フェネック「ふーん、まあいいや。昨日は、アライさんはどこで眠ってたのー?」

アライさん「どぶの中なのだ」

フェネック「どぶ!どこだいそれはー」

アライさん「あっちの方なのだ」

フェネック「それで、痛い目にはあわなかったのかい?」

アライさん「セルリアンに攻撃されたのだ……でも、それほどでもないのだ!」

フェネック「やっぱりいままでと同じセルリアンだよー」

アライさん「それはどうか分からないのだ」

 

沈黙

 

フェネック「前からずーっと考えてたんだけどねー、もしわたしがいなかったらアライさんはどうなってたのかなー?今ごろはきっと、フレンズでもないただの動物だよー。間違いないよー」

アライさん「それがどうだっていうのだ?」

フェネック「全くフレンズ一匹をこうまでいじめなくてもさー。……でもまあ、今となってはめそめそしたってしかたがないしねー。そう考えてみたら、良かったのはずーっと昔のことだよねー。まだパークの遊園地が動いてた頃かなー」

アライさん「もうたくさんなのだ。それよりこれを脱ぐのを手伝ってほしいのだ」

フェネック「真っ先に手をつないで、観覧車の上から飛びおりることもできたろうけどさー。あのころはわたしたちの毛皮も立派だったしー。今じゃもう手遅れだよー。もう博士も観覧車を動かしてくれないしさー」

 

アライさんは、夢中になって靴に取りついている

 

フェネック「何をしてるの?アライさーん」

アライさん「足の毛皮を脱いでいるのだ!フェネックは脱いだことがないのか?」

フェネック「昨日今日の話じゃないじゃないかー、まったく、足の毛皮は毎日脱ぎなって言ったじゃーん。わたしの言うことを聞いておけばよかったのにー」

アライさん「うう、手伝ってほしいのだ……」

フェネック「痛いのかい?」

アライさん「痛いのだ!フェネックはなんで今さら痛いのかなんて聞いてくるのだ!」

フェネック「ああ、そうだろうねー。苦しむのはいつだってアライさんだけなんだよー。わたしは問題にならないんだー。アライさんがわたしの身代わりになったところを一度くらい見てみたいよー。少しは言うことが変わるだろうからさー」

アライさん「フェネックも痛かったことあるのか……?」

フェネック「痛かったよー、アライさんときたら今さら痛かったかなんて聞いてくるんだー」

 

アライさん、人さし指を突き出し

 

アライさん「だからって、毛皮の前のつなぎ目をちゃんと閉めないのはダメなのだ!」

フェネック「ん、ほんとだ。よいしょ、小さいものでも野放しはいけないねー」

アライさん「無理もないのだ。フェネックはいつでも、最後の最後までがまんしているのだ」

フェネック「最後の最後かー……それはまだまだ先だよー。でもきっとすばらしいに決まってるさー。そういったのはだれだっけ?」

アライさん「手伝ってくれないのか?」

フェネック「わたしも、とにかくそれがやってくるとたまには思うんだー。すると、なんだか、まるでこう妙な気分になるんだよー」

 

フェネック、耳を触りながら

 

フェネック「どう言ったらいいかなー?ほっとして、同時にこう……慄然とする。うん、り・つ・ぜ・ん、とするんだよー」

 

アライさんはたくさん努力して、靴を脱ぐことに成功し、靴の中を眺め、手を突っ込んでみる。

それから、ひっくり返して、ふるう。

地面に何か落ちなかったか探すアライさん。何も見つからない。再び手を中に入れる。ぼんやりした目つき

 

フェネック「どうだいアライさーん?」

アライさん「なんにもないのだ」

フェネック「みせてごらんよー」

アライさん「見たって何にもないのだ!」

フェネック「もう一度はいてみなよー」

アライさん「ちょっと足を風に当てるのだ」

フェネック「もー悪いのは自分の足なのに毛皮のせいにしようとするー。少し心配になってきたよー。」

 

沈黙

アライさんは鼻歌を歌いながら足の指を動かしている。

 

フェネック「泥棒のうち、一人は救われたんだー。これは、率としては悪くないよねー。……アライさーん」

アライさん「何なのだ?」

フェネック「ごめんなさい、をしたらどうかなー」

アライさん「何をごめんなさいするのだ?」

フェネック「そうだねー……そんな細かいことはどうでもいいんじゃないかなー」

アライさん「フレンズ化したことをか?」

 

フェネックは気持ちよく笑い出すが、すぐに手を腰のあたりに当てて、こわばった顔つきで笑いを噛み殺す。

 

フェネック「もう思い切って笑えもしないよー」

アライさん「アライさん知ってるのだ、それは不能ってやつなのだ!」

フェネック「せめて微笑かー」

 

フェネックの微笑はこわばってしまい、そのまましばらくつづいて、やがて急に消える

 

フェネック「ちがうんだなこれじゃあ。しかしまあ……アライさーん」

アライさん「まったく、何なのだ!」

フェネック「アライさんはパークの昔話を読んだかいー?」

アライさん「昔話……たしかざっと目は通したのだ」

フェネック「さばんなちほーでかい?すごいよアライさーん」

アライさん「何ちほーだったかは忘れてしまったのだ」

フェネック「きっと、このしんりんちほーと勘違いしているんだよー」

アライさん「そうかもしれないのだ。でもパークの地図は覚えているのだ。色がついてて、とってもきれいだったのだ!海は薄い青だったのだ。見ただけでのどがかわいて、いつか行きたいって思ったのだ。泳いだら、とても幸せだろうって思ったのだ」

フェネック「アライさんは詩人になればよかったんだよー」

アライさん「アライさんは詩人だったのだ!毛皮を見ればわかるのだ!」

 

沈黙

 

フェネック「なんだっけっと……そうだ、どうだいー?足は」

アライさん「ふくれてきたのだ」

フェネック「ああそうだ。昔話の泥棒の話さー、覚えているかい?」

アライさん「覚えてないのだ」

フェネック「話してあげようかー」

アライさん「別にいいのだ」

フェネック「退屈しのぎにさー。それは二匹の泥棒フレンズでねー、救世主のフレンズといっしょに罰をうけたんだー。ところがー」

アライさん「救世主のフレンズ……?」

フェネック「みんなを救うフレンズだよー。それから泥棒フレンズが二匹。ところが一匹は救われてー、もう一匹は……セルリアン行きになったのさー」

アライさん「救われたって、何からなのだ?」

フェネック「セルリアンからだよー」

アライさん「アライさんはもう行くのだ」

フェネック「ところが、そこでー……退屈だったら悪いんだけどねー」

アライさん「そもそも聞いてないのだ」

フェネック「ふーん……」

アライさん「う、嘘なのだ!」

フェネック「どうしたことか、その話を伝えた四匹のフレンズのうち、そういう風に事実を話しているのはたった一匹だけなんだよー。でも、四匹ともその場にはいたはずなんだー。いや、とにかく近くにはねー。それなのに、泥棒の一匹が救われたと言っているのは、そのうちたった一匹だけなんだー。……ねえアライさーん、たまには相づちくらいうってよー」

アライさん「ちゃんと聞いてるのだ!」

フェネック「四匹のうち一匹、あとの三匹のうち二匹は何にも言ってないんだよー。もう一匹は、泥棒が二匹とも悪態をついたって言うんだよー」

アライさん「誰になのだ?」

フェネック「え?」

アライさん「アライさんにはちっとも分からないのだ……誰に悪態をついたのだ?」

フェネック「救世主のフレンズにさー」

アライさん「なぜなのだ?」

フェネック「なぜって、泥棒の二匹を救ってあげようとしなかったからさー」

アライさん「セルリアンからか?」

フェネック「いいや、そうじゃない。動物に戻っちゃうことからだよー」

アライさん「で、どうしたのだ?」

フェネック「で、二匹ともセルリアン行きさー」

アライさん「ふーん、それで?」

フェネック「ところが、一匹だけは言ってるんだー。一匹は救われたって」

アライさん「それじゃあ、二人の意見が違うってだけのことじゃないのか?」

フェネック「四匹ともいっしょにいたんだよー。でも一匹だけ、泥棒は救われたって言うんだー。他の三匹より、その一匹を信じないといけないのはなぜだろうねー?」

アライさん「信じるって、誰が信じているのだ?」

フェネック「そりゃあ、誰もかれもさー。その筋書きしか伝わってないんだー」

アライさん「ふーん、みんなバカなのだー!」

 

アライさんはつらそうに立ち上がり歩き出すが、立ち止まると、片手をかざして遠くを眺める。やがて、振り向いて、逆方向へ向かって歩き、遠くを眺める。

フェネックは、それを目で追ってから靴を拾いに行き、中をのぞき込むが、あわてて放り出し、地面に唾を吐く。

 

フェネック「プッ!」

 

アライさんは戻って来て、奥を眺める。

 

アライさん「悪くないのだ。いい眺めなのだ!さあ、もう行くのだ!」

フェネック「ダメだよアライさーん」

アライさん「なぜなのだ?」

フェネック「かばんさんを待つんだよー」

アライさん「ああ、そうだったのだ。確かにここなのか?」

フェネック「何がー?」

アライさん「待ち合わせの場所なのだ」

フェネック「図書館の木の前だって言ってたからねー。ほかにあるかいー?」

アライさん「これは何の木なのだ?」

フェネック「柳かなー」

アライさん「葉っぱはどこなのだ?」

フェネック「きっと枯れてしまったんだよー」

アライさん「きっと涙も尽きたのだ」

フェネック「でなけりゃ季節のせいだよー」

アライさん「でもこれはどっちかっていったら灌木じゃないのか?」

フェネック「おっ、難しい言葉を知ってるねえ、でもこれは喬木だよ」

アライさん「灌木なのだ!」

フェネック「喬……それはどういう意味だいー?場所を間違えてるとでも言う気かいー?」

アライさん「だってもう来てもいいはずなのだ」

フェネック「でも確かに来ると言ったわけじゃないよー」

アライさん「じゃあ、来なかったらどうするのだ?」

フェネック「あした、もう一度来てみるさー」

アライさん「それから、あさっても、なのだ」

フェネック「そりゃあ……そうさー」

アライさん「その調子でずっとなのだ」

フェネック「だから、それは……」

アライさん「かばんさんが来るまで」

フェネック「アライさーん、なにもそう……」

アライさん「アライさんたちは昨日もここにやって来たのだ」

フェネック「いいや、それは違うよー」

アライさん「じゃあ、きのうは何をしたのだ?」

フェネック「そりゃあ……アライさんは疑いを起こさせるのだけは一人前だよねー」

アライさん「アライさんたちはここにいたのだ。アライさんはそう思ってるのだ」

フェネック「場所に見覚えがあるのかい?」

アライさん「そうは言わないのだ」

フェネック「じゃあ、なんだいー?」

アライさん「言わないけれど、そうなのだ」

フェネック「でも……この木…………この、泥んこは……」

アライさん「確かに今晩なのかー?」

フェネック「土曜って言った……と、思う。どこかに書き付けておいたはずだよー」

アライさん「いったい、どの土曜なのだ?それに今日は土曜なのか?日曜のような気がするのだ。いや月曜かもしれないのだ。金曜ってことも考えられるのだ」

フェネック「そんなはずはないよー」

アライさん「それか、木曜なのだ」

フェネック「なんだよー」

アライさん「もし昨日、むだ足をさせてしまっていたら、今日かばんさんは来ないのだ」

フェネック「だって、アライさんはゆうべわたしたちが来ていたって言ったじゃないかー」

アライさん「アライさんにだって思い違いってことがあるのだ。フェネックは、少し黙るのだ」

フェネック「しょうがないなー」

 

アライさんは再び地面に座る。

フェネックはいらいらいながら、行ったり来たりする。ときどき立ち止まって、地平線を探る。

アライさんは居眠りし始める。フェネックはアライさんの前に来て、立ち止まる。

 

【つづく】

 

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