飄々舎

京都で活動する創作集団・飄々舎のブログです。記事や作品を発表し、オススメの本、テレビ、舞台なども紹介していきます。メンバーはあかごひねひね、鯖ゼリー、玉木青、ひつじのあゆみ。

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かばんさんを待ちながら➆

初回&前回記事はこちら↓

 

hyohyosya.hatenablog.com

hyohyosya.hatenablog.com

 

かばんさんを待ちながら➆

アライさん、立ち止まる。フェネックとアライさん、声の方を見る。

 

アライさん「また始まったのだ」

フェネック「こっちにおいでよー」

 

草むらからサーバルがびくびくしながら出てくる。

 

サーバル「ミライさんは?」

フェネック「わたしだよー」

アライさん「何の用なのだ?」

フェネック「もっとこっちにおいでよー」

 

サーバル、動かない。

 

アライさん「こっちに来るのだ!」

 

サーバル、びくびくしながら近寄り、立ち止まる。

 

フェネック「いったい何なのさー?」

サーバル「かばんちゃんが……(黙る)」

フェネック「そんなことだと思ったよー。こっちへおいでー」

 

サーバル、動かない。

 

アライさん「こっちへ来るのだ!」

 

サーバル、びくびくと前に出て、止まる。

 

アライさん「どうして、こんなに遅くなったのだ?」

フェネック「かばんさんからの伝言があるのかいー?」

サーバル「そうなんだ!」

フェネック「そうか。言ってごらんよー」

アライさん「どうして遅くなったのだ?」

 

サーバル、二人をかわるがわる見る。どちらに返事していいか分からない。

 

フェネック「アライさーん、そんなにガミガミ言っちゃだめだよー」

アライさん「フェネックは黙ってるのだ!今何時かわかってるのか?」

サーバル「でも、わたしのせいじゃないよ!」

アライさん「じゃあアライさんのせいなのか?」

サーバル「怖かったんだよ」

アライさん「怖いって、何が怖いのだ?アライさんたちか?セルリアンか?……何か答えるのだ!」

フェネック「分かってる。怖がらせたのはあの連中だよー」

アライさん「いつからここにいるのだ?」

サーバル「ちょっと前からだよ」

フェネック「鞭が怖かったんだねー」

サーバル「うん」

フェネック「叫び声がー?」

サーバル「うん」

フェネック「あの三匹のフレンズがー?」

サーバル「うん」

フェネック「あのフレンズ、知ってるかいー?」

サーバル「知らないや」

フェネック「君は、このあたりがナワバリなのー?」

サーバル「うん」

アライさん「みんなうそっぱちなのだ!本当のことを言ーうーのーだー!(サーバルの手をゆすりながら)」

サーバル「全部本当のことだよ!」

フェネック「いいからそっとしといてあげなよー。アライさんちょっと変だよー?」

 

アライさん、サーバルから手を離すと、両手で顔をおおう。

フェネックサーバルはそれを見つめる。

アライさん、ゆがんだ顔を見せる。

 

フェネック「どうしたのさー」

アライさん「アライさんは不幸なのだ」

フェネック「なに言ってるんだよアライさんーそれはいつからだいー?」

アライさん「忘れたのだ」

フェネック「記憶っていうのは本当にあてにならないからねー……。それで?」

サーバル「かばんちゃんが……」

フェネック「君は会ったことがあるのー?」

サーバル「わたし、わかんないや」

フェネック「わたしのこと、知らないー?」

サーバル「うん」

フェネック「きのう、来たんじゃないかいー?」

サーバル「来てないよ」

フェネック「ここへ来たのは初めてかいー?」

サーバル「そうだよ」

 

沈黙

 

フェネック「誰でも一度はそう言うけどねー。じゃあ、続きを聞こうかー」

サーバル「えっとね、かばんちゃんがね、今晩は来られないけど、明日はかならず行くからって言うようにって」

フェネック「それだけかいー?」

サーバル「うん」

フェネック「君はかばんさんといっしょに旅をしてるのー?」

サーバル「うん」

フェネック「普段は何をしてるんだいー?」

サーバル「狩りごっことか」

フェネック「かばんさんは君には優しいかいー?」

サーバル「うん!」

フェネック「いじわるしたりしないのかいー?」

サーバル「うん。わたしにはしないよ」

フェネック「じゃあ、誰にいじわるするんだいー?」

サーバル「ほかのフレンズとか」

フェネック「へえ!ほかのフレンズもいるのかい?」

サーバル「うん」

フェネック「他のフレンズは普段何してるんだいー?」

サーバル「狩りごっことか」

フェネック「どうして君にはいじわるしないんだろー?」

サーバル「わかんないや」

フェネック「きっと君が好きなんだよー」

サーバル「わかんないや」

フェネック「ジャパリまんはたくさんくれるかいー?」

サーバル「えっと……」

フェネック「かばんさんは、君にジャパリまんをたくさんくれるかいー?」

サーバル「……うん。すっごく」

フェネック「君は不幸じゃないんだねー」

サーバル「……」

フェネック「聞いてるのかいー?」

サーバル「うん」

フェネック「じゃあ、答えてよー」

サーバル「わたし、わかんないや」

フェネック「自分が不幸かどうか、わからないのかいー?」

サーバル「うん」

フェネック「わたしとおなじだねー。君はどこに寝てるの?」

サーバル「草むらとか」

フェネック「他のフレンズも一緒かいー?」

サーバル「うん」

フェネック「柔らかい草の上でー?」

サーバル「うん」

 

 

フェネック「もう、行っていいよー」

サーバル「かばんちゃんに何て言う?」

フェネック「そうだなー、私たちに会ったって言っておいてよー。だって君は私たちに会ったからねー」

サーバル「うん……分かった」

 

サーバル、走り去る。

 

光がいきなり弱くなり、一瞬にして夜になる。月がのぼり、世界を銀色に照らす。

 

フェネック「やっとだよー」

 

アライさん、片手に靴を両方持って、フェネックに近づき、それを置くと腰を伸ばして月を眺める。

 

フェネック「どうしたんだい?アライさーん?」

アライさん「フェネックと同じなのだ。月の光を見ているのだ」

フェネック「わたしが見てるのはアライさんの靴だよー」

アライさん「ここに残しておくのだ。誰かアライさんと同じように……とにかく、アライさんより足が小さいフレンズが来たら、きっと喜ぶのだ」

フェネック「だって、靴なしじゃ歩けないよー」

アライさん「"ボス"は歩いたのだ」

フェネック「"ボス"?アライさーん、そりゃないよー。いくらなんでも、自分と"ボス"を一緒にするなんてさー」

アライさん「アライさんはずっと、アライさんと"ボス"を一緒にしてきたのだ!」

フェネック「だってあれは、もっと暑いちほーの話じゃないかー」

アライさん「そうなのだ。それに、"ボス"は結局、海に沈んでしまったのだ」

 

沈黙。

 

フェネック「もう、ここにいても仕方がないんじゃないかなー」

アライさん「他だってダメなのだ」

フェネック「アライさーん。そんなこと言うもんじゃないよー。明日になれば、きっと何もかも上手くいくよー」

アライさん「どうしてなのだ?」

フェネック「さっき、あの子が言ったのを聞いてなかったのかいー?」

アライさん「聞いてなかったのだ」

フェネック「かばんさんは明日は必ず来るっていってたじゃないかー」

アライさん「じゃあ、ここで待ってればいいのだ」

フェネック「それはダメだよー。夜露をしのがなくちゃー。さあ、行こう?アライさーん」

 

アライさん、フェネックに腕を引かれ最初は従うがやがて逆らい、立ち止まる。

アライさん、木を眺める。

 

アライさん「綱一本ないのが残念なのだ」

フェネック「行こう。寒くなってきたよー」

アライさん「明日は綱を持ってくることを、思い出させてほしいのだ」

フェネック「はいよー。さあ」

アライさん「フェネックとずっと一緒にいるようになってから、どれくらいになるのだ?」

フェネック「うーん、どれくらいになるだろうねー」

アライさん「アライさんがじゃんぐるちほーの川へ落ちた時のこと覚えてるか?」

フェネック「ぶどうを摘んでいたんだってねー」

アライさん「そしてフェネックに釣り上げられたのだ」

フェネック「全部、過ぎたことだよー」

アライさん「アライさんの毛皮が、日の光で乾いたのだ」

フェネック「もう考えるのやめなよー。さあ、行こう?」

アライさん「ちょっと待つのだ」

フェネック「寒いじゃないかー」

アライさん「ときどき思うのだ。アライさんとフェネックは、お互い別々に、一人でいたほうがよかったんじゃないかって。もともと、同じ道を歩くようには、できていなかったのだ」

フェネック「どうかなー。それはわからないよー」

アライさん「分からないといえば、何だって分からないのだ」

フェネック「その方がいいっていうなら、いつだって別れられるんだよー」

アライさん「今じゃもう、無駄なのだ」

 

沈黙。

 

フェネック「そうだねー。今じゃもう、無駄だねー」

 

沈黙。

 

アライさん「それじゃあ、行くのだ」

フェネック「うん。行こう」

 

二人は、動かない。

 

 

【第一部 完】