帰ってきた読書放談(第三回:読書大喜利①~動物園と△~)
かみしの(以下:か) そういうわけでね、場所を移動したわけですけど
あかひね(以下:あ) このね、誰かに話しかけてる体になるのも変な話ですけどね、書き起こすんですから(笑)
か そうね(笑)
あ リスナーさんがいる気になっちゃう(笑)
か じゃあじゃあじゃあ、お題を
あ なんも考えてないですけど、えー、最初は易しいほうがいいですね……「動物園みたいな小説」
か 動物園みたいな本……思いつきました
あ 早いなあ、言っといてなんも思いつかない、先言ってください
か 高橋源一郎の『君が代は千代に八千代に』っていう
あ それ動物園感あるんですか
か あの、登場する人達が奇人変人ばっかりで、たとえば下ネタというか下ネタどころじゃないエロ、グロ、ナンセンスみたいなところもあり、それが短篇集になってて、いろんな人図鑑みたいな形で区分けされてて。高橋源一郎も『動物記』という本も書いているというところで、こんな軽いジャブみたいな感じで動物園感あるかな、と
あ その感じでいうと、前のときに言った『日本フォーク私的大全』はどっちかっていうと動物園だったんですよ、でも言ってしまったので、そうだなここは『キノの旅』で
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か ふんふん
あ 同じように、これの場合は人物じゃなくて国、いろんな国の世界観みたいなのを見ていくと。大事なのはキノは傍観者でしかない。あくまで外側から見るし、内部にそんなに過干渉はしない、それが動物園的……キノの国に対する視線がそうですよね
か なるほどね、外部から眺めている感じ
あ ただ旅をするのが目的なので、まあ『キノの旅』かなと
か なるほど、そういう漫画で『少女終末旅行』というのがあるんだけど
あ 言ってましたね
か それも同じように、ロストテクノロジーのような世界を二人でとことこ進んでいく、傍観者的にいろんな世界を旅していく……そういうの、いいよね
あ なんか他にあるかな、そういうの。これは小説じゃないですけど、いとうせいこうの「東京ブロンクス」っていうラップはまさにそうですね。「俺はラッパー JAPPA RAPPA MOUSE起きたら外は暗いまま 寝過ごしたと思ってドアを開けたら東京はなかった」から始まって、朝起きると東京がないんですよ。ぐちゃぐちゃな東京を比喩として、その東京のぐちゃぐちゃな感じがヒッピホップスタイルと酷似してる。
か ほう
あ 「こんなディスコはまるで知らない 屋根も柱もブースもない ミラーボールもレーザービームもレジもクロークもない ラジオもない 電話もない あっても受話器は誰も取らない」
か パロディ、パロディ(笑)
あ ここはパロディなんですけど、なんというかねディストピア。東京にたった一人残ったラッパーの歌
か その感じでいったら村上龍の『限りなく透明に近いブルー』も、黒人が出てきて、暴力とかセックスとかあるんだけど、でも主人公はさめてるんだよね。それがタイトルになってるんじゃないか、という説もあって、さめてる人がごちゃごちゃした世界を眺めてるというのは視線の問題でよくあるのかもしれない
あ 「東京ブロンクス」の場合は誰もいないですけどね、『アイアムレジェンド』みたいな
か というわけでね
あ 脱線するところが醍醐味ですからね
か じゃあ、次。そうだね、「三角形みたいな作品」
あ 三角形……うーん
か 難しいな
あ 3つながりで考えるしかないかあ
か 先行でどうぞ
あ じゃあね、まあちょっと置きに行った感はありますけど、夢水清志郎事件シリーズ『そして五人がいなくなる』かな、最初の。いわゆる三つ子がでてくるんですよ。読んだことあります?
そして五人がいなくなる 名探偵夢水清志郎事件ノ-ト (講談社青い鳥文庫)
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か 読んだことない
あ 夢水清志郎っていうグラサンの探偵が出てくる話で、はやみねかおる先生の作品なんですけど、児童書の青い鳥文庫でやってて、アイちゃんとマイちゃんとミーちゃんっていう三つ子が主人公なんですよ。で、三つ子が住んでる家の隣に古い洋館があって、そこにある日長身で黒のスーツで真っ黒なサングラスをかけた男が住むんですよ。中には大量の本が運び込まれて、その男の名前が夢水清志郎
か ほおー
あ わりと本格の推理ものなんですけど、三つ子が出てきて誰一人欠けてはいけないというところがまあ三角形と言えるんじゃないかと
か 三位一体のね、なるほど
あ 三つ子だってことは叙述ミステリーになってるんですけど、表紙でネタバレになっているという
か 表紙で叙述ミステリーばらすなよって感じ(笑)あるよね、帯とか裏表紙でネタバレしてるやつ
あ ミステリーじゃなきゃいいって部分もありますけど、『老人と海』のネタバレやばかったですからね。物語の八割くらいあらすじに書いてありましたよ(笑)それ読んだらもういらないやろと(笑)
か 新潮文庫の?新潮文庫書くんよ。「○○が死ぬまでのストーリー」とか書いてある(笑)もうわかっちゃったやん、と。『悲しみよこんにちは』とか、サガンの。あと武者小路実篤の『愛と死』とか全部後ろでネタバレされてる
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あ いうないうな
か ねえ、まあなるほどね、3という数字に注目してね。言ったはいいけどぱっと思いついたのは夏目漱石の『草枕』だった
あ なんでなんですか、それは
か 文章の中に「芸術家は三角形に住んでいるようなものだ」みたいな一節が
あ よう覚えてますねそんなん
か あった気がして。印象的なフレーズだったから覚えてて。ヒエラルキーの頂点にいるという意味合いではないんだけどね
(正しくは:『四角な世界から常識と名のつく、一角を磨滅して、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでもよかろう』でした)
あ 周縁にいるというような感じなんですかね
か っていうのがまず思い浮かんで、あと四角形には鈍角も鋭角もないわけじゃん、全部90°だから。でも三角形に関してはあるから、この鋭いとか鈍いとかっていうのは文章でも使う言葉で
あ ああ、いい視点だな。その視点はなかったな
か それでいったら『草枕』ってものすごい鋭い文章なんだよね。夏目漱石ってどれをよんでも、普通に面白いっていうか
あ もっちゃりしてるイメージはありますね
か 読みやすいんだけど、これはなんだか読みづらい。最初の一文が有名だけど「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」。最初だけかと思ったら全部そんな感じで、フレーズ集みたいな部分もある。あの鋭さ、確か『街場の文体論』か何かでも取り上げられてたけど、ドライブがかかった文章かつペダンティックでわかりづらいようなこと書いてあるんだけど、でも嫌味くさくない
あ もともとごりごりのインテリですからね
か そういう感じをスパッと出してきて珍しいというので、まあ夏目漱石『草枕』かなというところですよ
あ さくさくいっていいですね。ちなみにかみしのさんってほんまもんの大喜利ってやったことあります?
か しょっちゅうやってる
あ 本を一冊もって、本の中のフレーズしか使っちゃいけない大喜利っていうのをずっと前からやってるんですけど、一回やってみませんか。面白いんですよ、一文だけ切り取ると意味が違ってきて
か やってみよう。あとあれはやってる、背表紙というか本のタイトルでJpopの歌詞みたいにする
あ あー、最近のやつでいうと文庫短歌に近いですかね
か そうね、あと一番ヴィジュアル系のバンドっぽいタイトルの本とか(笑)島田雅彦『そして、アンジュは眠りにつく』とか
あ 組み合わせたりとかしてね
か 『重力ピエロ』もそれらしさがある。本を使った遊びって結構面白いよね。そろそろ三つ目のお題行こうか
あ そうですね、ちょっとひねりましょうか。えー、では……「走り幅跳びのような本」
か 走り幅跳びのような本……?
→次回、最終回あかひねとかみしのの考える「走り幅跳びのような本」とは……?そしてどんどん複雑になるお題
前回です
よまいでかという企画もやっています。そろそろ第三回を挙げる予定です。リクエスト募集中です。