第三回よまいでか『魔女がいっぱい』
こんにちはかみしのです。
おひさしぶりの更新です。
今回は第三回、ロアルド・ダール作『魔女がいっぱい』です。
- 作者: ロアルドダール,クェンティンブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,清水達也,鶴見敏
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このロアルド・ダールの名を聞いて、たいていの人がまっさきに思い浮かぶのはジョニー・デップ主演『チャーリーとチョコレート工場』の原作である、『チョコレート工場の秘密』ではないでしょうか。ぼくもそうでした。
チョコレート工場の秘密 (ロアルド・ダールコレクション 2)
- 作者: ロアルド・ダール,クェンティン・ブレイク,Roald Dahl,Quentin Blake,柳瀬尚紀
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この『魔女がいっぱい』は、クェンティン・ブレイクの独特の挿絵入りの児童文学。
読んでいて、なんだかなつかしい気持ちになりました。
おとぎ話のなかの魔女というのは、いつも黒い帽子に黒マント姿で、ほうきの柄に乗って飛んでいる。ところがこれから始まるのは、そんなおとぎ話ではなくて、ほんものの魔女がでてくる話なのだ。
という書き出しは、まさに語り聞かせの導入のよう。
昔々、とはじまる物語をお母さんから寝物語に聞いていた時代を思い出してしまいます。
ところでフォント病というのがあります。勝手にぼくが名前をつけたのですが、ぱっとページをひらいたときに特殊なフォントがあると無条件に面白そうと思ってしまうという、厄介なパブロフの犬現象なのです。
たとえばこういうの↓
ベスター『虎よ、虎よ!』
高橋源一郎『虹の彼方に』
プラセンシア『紙の民』(手はぼくのではありません)
これは少し極端な例なのですが、この『魔女がいっぱい』も一ページ目を開いたときに、「ほんものの魔女」が太字になっていて、その時点でぼくは「あ、おもしろそう」と条件反射のように思ってしまったのでした。うめぼしを見るとよだれがでるのと同じようなものです。
どうして太字になっているのか。
はじめは聞き手、読み手、つまり子どもたちを怖がらせるためかと思いました。「ほんものの魔女」とは、いわゆるおとぎ話でよくでてくる(「ヘンゼルとグレーテル」とか「しらゆき姫」とか)とは別物とされています。
もしかしたら、魔女は今、となりの家に住んでいるかもしれない
つまり、身の回りにいるあの人も、この人も、恐ろしい魔女かもしれない。
森の中で、よくわからない紫色のものをぐつぐつ煮込んでいる魔女ではなく、「ほんものの魔女」はそこら中にいる。それを強調しているのかなと思いました。
子どもを疑心暗鬼に陥れるロアルド・ダール、なんて悪い男だ……とか思いながら読み始めました。
けれど、読み終えて、この記事「地獄の門」の魔女たち、ノルウェーの暗い歴史 写真3枚 国際ニュース:AFPBB Newsを読んで少し別の意味もあったりするのかな、なんて思ったりもして、これについてはあとで書いてみます。
まずは物語について。
主な登場人物はぼく、おばあちゃん、それから魔女。両親を事故で亡くした(この設定からして少しダーク感が強い)ぼくが、ノルウェーのおばあちゃんの家にひきとられるところから物語ははじまります。
おばあちゃんは魔女についての逸話をぼくに話します。
これがなんだかうさんくさい。ちょっと話の矛盾点をぼくにつつかれると「おばあちゃんは年寄りだから」といった具合にとぼけたおすので、もしかして魔女なんていないのではという気持ちにすらなっていきます。
でもそんなことはなくて、とあるホテルに宿泊したぼくは魔女の集会に遭遇してしまします。
中でも大魔女と呼ばれる存在がいて、彼女はすべての魔女をすべる魔女であり、資産家でもあります。美しい顔をしているのですが、それは仮面。正体は、
なにか猛烈に狂っていて、むかつくほどきたなくて、くさってくずれていた。
といった具合。部屋も紳士用トイレのにおい、と称されるようなとにかく汚い存在として描かれています。ちなみに魔女にとってはきれいな子供は「犬のうんちのにおい」らしく、このあたりシェークスピアの魔女の「きれいはきたない、きたないはきれい」を思い出したりしました。
大魔女は奇妙な話し方をします。こんな感じ。
つぎにあげりゅものを、つぎつぎにまぜあわせりゅざんす
ラ行がりゃりゅりょ、と表記されてひらがな過多の書かれ方をすることで「くとぅるふ」的な怖さがでます。よく「ヵッォ」みたいな小文字が怖い、みたいなのがありますがあれと同じで不明瞭であったり、普通とわずかに違うものであったり、不気味の谷に入り込んでいるものは怖いわけです。ダールもそれをしかけているのかな、と思いました。
魔女たちはイギリスの子供をすべてネズミにかえてしまう計画を練っています。ぼくは隠れて会議をやりすごそうとするのですが、においでばれてしまいます。そうしてぼくはネズミにされてしまいます。
さて、ネズミにされてしまったぼくはイギリスを救うことができるのか――というのが話の大筋なのですが、この小説、児童文学としては少しダークな部分がおおかったりします。
両親の事故死であったり、魔女たちの殺せコールであったり、おばあちゃんがヘビースモーカーであったりというところもさることながら、一番衝撃的なのが、ぼくはネズミになったままもとには戻れません。
戻れないまま、ネズミとしておばあちゃんとすごしていくことになります。
普通だったら、もとに戻ると思うんです。
でも『魔女がいっぱい』では、そのセオリーは無視されます。なので、ある意味でメリーバッドエンドの作品、ほろ苦い後味の作品となっています。
ぼくが一番好きだった言葉を引用しておきます。
「ぼうや、残りの命をネズミで生きるってこと気にしないって、ほんとうなの?」
「ぜんぜん気にしてないよ。かわいがってくれる人がいれば、自分が誰だとか、どのように見えるかなんて、たいしたことじゃないもの」
ここ。
何回も読んでしまいました。これってもっともっと広い意味でとれる言葉だと思うんです。一人愛してくれる人がいたら、見た目がどうとか、どんな生き方だとか、関係ない。
こういうきらきらした言葉を見ると、ぼくは目がくらんでしまいます。
すごく心に入り込んでくるんです。でも、それを拒否する自分もいます。お前はひとりでいなくちゃいけない、といった強迫観念が存在しているので、人と手をつなぐことで幸せになれる系の言葉を見るとなぜかさみしくなってしまいます。まあ、これはぼくのひねくれてねじくれまくった感性のお話なので、置いといて、このやりとりはほろりとさせられます。
その「かわいがってくれる人」を見つけたいものですね。
全体として、少しダークな児童文学といった感じで読みやすいながらも、読み応えのある面白い作品でした。
それで、「ほんものの魔女」についてのお話です。
先ほど挙げた記事によると、ノルウェーでは17世紀「地獄の門」と呼ばれる場所で魔女狩りが行われていたようです。魔女狩りというのは、中世、女性が魔女として次々処刑された、いわゆる悪しき風習なのですが、作品の舞台の一つノルウェーでも、この魔女狩りは行われました。
ところでこんな図があります。海野弘『魔女の世界史』からの引用です。
この図は、古今東西の魔女的なものを分布した図なのですが、作者曰く魔女狩りの対象になったのはⅣの魔女たちだったとのことです。
つまり、この小説に登場する「おばあちゃん」も、中世においては魔女狩りの対象となりえたということです。
このおばあちゃんは、常に「ぼく」の味方であって善なる存在として描かれています。
そういった善なるものが悪なるものとして、断罪されていった時代が確かにあったわけです。この小説の中で「ほんものの魔女」は明確に悪なる存在として描かれています。
つまりこの「ほんものの魔女」は悪の強調である一方、対立項としての「にせものの魔女=ほんものとされた魔女=普通の女の人」も想像させるわけです。
その「にせものの魔女」の代表としておばあちゃんが存在していて、はまきを吸うような悪そうな一面をもちあわせながら、つねに善なるものであり続けるおばあちゃんは、大魔女の鏡合わせとして存在しています。
一見悪そうな人でも、それは悪ではない。また仮面で見繕っている美しい人も悪たり得る。
それを正しく判断しなくていけない。大人になるうえで、社会に参加するうえでそういうことが大切である。
そのメッセージにに魔女狩りに対する問題意識をも込めている、とまでいうのはおそらくいいすぎだと思いますが、「ほんものの魔女」の太字にはしっかり意味があるのではないかと思いました。
ロアルド・ダール、すごい。
第一回よまいでか。俺TUEE系直木賞小説です。
第二回よまいでか。人のいなくなった世界をことこと旅する女の子たちのライトノベル。
募集はこちらのブログへのコメント、あるいはぼく(かみしの)かあかひねさんへのリプライ・DMでおねがいします。ぼくに強制的に本を送り付けるということもできますので、どんどんお待ちしています。カムヒア。
帰ってきた読書放談(最終回:読書大喜利②~幅跳びと太陽とピアノ~)
(前回のお題、「走り幅跳びのような本」について)
あかひね(以下:あ) 走り幅跳びの特徴といえばですね、走ってきて踏み切って、一番最高点に到達した後に着地すると、いうわけですね。これは人類の文化の歴史と重なる部分があるわけですよ。最初、草創期があり、過渡期があり、全盛の時代に入っていき徐々に下降していって砂に埋もれると
かみしの(以下:か) なるほどなるほど
あ これは塩野七生先生の『ローマ人の物語』をだしたいと思います。帝政始まって五賢帝のところらへんまで読んだんですよ。だから今は走り幅跳びの一番高いところなんですよ。パクス・ロマーナの最高潮のところで、ここからだめになっていく(笑)踏み切りのね、タイミングがね、カエサルがルビコン川をわたるところなんですよね。そこで踏み切って、オクタヴィアヌスが来て、ぐちゃぐちゃした皇帝の時代がきーの、五賢帝がきーのでここから下降していきます。キリスト教がはびこり
か 破滅していく
あ 最後には砂に入る、埋もれていくという
か うまいね、あの一連の動作を歴史に見立てたと。じゃあね、安岡章太郎の『ガラスの靴』っていうのがあって。第一イメージとして思い浮かぶのが、スポーツはさわやかな感じがあって
あ なるほどね、イメージからくるパターンね
か そうそう。文学って重苦しいイメージがあるけど、安岡章太郎の『ガラスの靴』はさわやかな印象があって、まず。第三の新人の一角で、結構身近なことを描いた短編が上手な人たちなんだけど、こじんまりとしたところも、走り幅跳びってトラックとかにくらべてこじんまりとしてるじゃない
あ そうですね、一瞬で終わりますしね
か だし、競技場の中でも端っこの方でやってる。ということでこじんまりとしつつ、」さわやかな『ガラスの靴』。これはタイトル通りシンデレラを下敷きにしていて、まあひと夏の恋の思い出みたいな。午前零時までのストーリーというか。短い作品なんだけど、村上春樹が影響を受けてたりして、空虚な感じで抒情もあり、という。『第三の新人名作選』とかにも載ってるし、第三の新人全体が走り幅跳びっぽいんだけど、まあ特に代表ということで
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あ さくさくすすんでいいですね、今度は込み入った感じにしましょうか
か うーん、「色鉛筆の中でも紫色で書かれた太陽のような小説」
あ 紫の色鉛筆で書かれた太陽のような小説
か そうです
あ はぁー……なんだろうなあ。いや、でもある気がする。なんかある気がする。イマジネーションはすごくわくんですよ。絶対読んでるはずだ
か なんだろうなあ。イメージとしては『白夜行』のイメージなんだよ
あ うろ覚えのやつですけど一個出てきました。あってるかどうかもわからないですけど。小学校時代に読んだ本で『選ばなかった冒険』っていう本があるんですよ
か ほう
あ これってどんな本かっていうと、毎日寝るたびに夢の中で冒険をするんですね、そこでは怪獣みたいなやつが出てきて、死ぬと夢の世界の記憶がなくなるんですよ。同じような夢をクラスのやつらもみてるんですけど、だんだん記憶を失っていくんですね。主人公以外の人間がどんどん夢を見なくなっていく、みたいな。なんかそんな感じだった気がする。それが紫の太陽っぽいんですよね。全体的に夢の中の世界が夜なんですよ、暗いんです。で、こじつけるならば色鉛筆なので消しゴムで消えるんですね、つまり覚めちゃう、消えると覚えてない。あってるのかなこのストーリー
か まあ、作ったら作ったでいい(笑)
あ たぶんこんな話だったと思うんだよなあ(検索して)あ、岡田淳だ。童話作家ですよね
か 岡田淳……『二分間の冒険』の人だっけ
あ そうですね、あと『こそあどの森』シリーズだった気がする。『星モグラ』もよくて、空を飛びたいモグラの話なんですけど。『選ばなかった冒険』の説明がある
か (あらすじを読んで)なんか、ラノベみたいな
あ でも空気が陰鬱なんですよ。表紙も
か 『幻影城』みたいな(笑)陰鬱な感じあるよね、紫色の太陽。なんだろうな、いろいろ悩むけど、『リア王』とかかな。シェークスピア
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あ ほう
か まず紫の太陽ってなんか舞台装置みたいな、照明のようなというところがありどこか作り物感がある。なので演劇。で、悲劇だし、ずーっと暗い感じだし、いいことひとつもないし(笑)特に『オセロー』『マクベス』『ハムレット』と比べて『リア王』が個人的に一番救いがないなと思ったので、より陰鬱な気持ちになるということで
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あ 『リア王』
か ほんとはね、もーっといろいろあるはずなんだけどね、思い浮かばない、ぱっと。瀬戸内寂聴ことぱーぷるが書いたケータイ小説でもよかったんだけど(笑)
あ なんすかそれ(笑)さすがエロ作家
か 抽象的になればなるほど難しいね
あ 次は明るい感じのお題でいきましょう
か 明るく、複雑な
あ 「親友の妹のピアノの発表会のような本」
か (笑)それは……
あ 幼馴染なんですけど、兄貴の方とは親友なんです。妹は、まあ、エロゲで惚れてくるやつです
か うーん……、なんだろう
あ イメージは思いうかぶんだよなあ
か イメージはわかる、イメージは……はい
あ はい
か 小説じゃないんだけど、穂村弘の『手紙魔まみ、夏のお引越し(ウサギ連れ)』っていう歌集
あ 歌集!歌集だされたら、なんとでも言えそうな気がする。どうします、どうプレゼンします
か ギャップ萌えだと思うんですよ僕は
あ ほう!なるほど
か 親友の家によくいっていて、お兄ちゃんもいるしアットホームだし、わりと騒がしいというか抜けてるというかお茶目なところがあるというか、そんな日常生活を送ってるんだよね。ちょっと冗談とか言い合いながら。そんな人が舞台に立つと、いままで見なかった一面が見えることがあると思う。親友の妹だからこそ普段を見ているし、でもその分ギャップもあるということで
あ はぁーなるほど
か で、穂村弘はエッセイとか見るとけっこうなダメ人間というか抜けてるような、寝ながら菓子パン食べてるような人なんだけど、短歌になるとこんなクリスタルのような歌がでてくるのかと。ピアノということで音楽性もあり、胸を打つというか、楽しくなれるようなものから切なくなるものまでよめてしまう。そんなところがあるのではないかと、いう観点で
あ そうかあ。うまい感じでやられちゃったなあ。んーっとねえ、ギャップ……。いや、ちょっと違うかなあ
か 思い浮かんだものをどうこじつけるかという
あ じゃあいきましょうかね。ポイントは母性、父性でもいいです。自分より劣ったものを保護したいと思う気持ち
か 庇護欲のようなもの
あ もう一つがギャップですね。宮部みゆきの異色作『ステップファーザー・ステップ』という
か あー、ハガレンの作者が表紙書いてた
あ ミステリーなんですけど、ある男が双子の男の子の継父になっちゃう話なんですよね。まずこれが父性というか母性というか、他人なんだけど庇護してあげたい気持ちになる。もう一つがギャップですね。なんていうのかな、子供が大人ぶってるんですよ
か 背伸びしてる感じなんだね
あ そこに関するギャップ。背伸びしてるんだけども、やっぱり子供だっていう。二重にギャップがあるんですよね。子供のくせに大人びているけど、やっぱり弱い。さみしい。もう一つが児童書に宮部みゆきが書いてるという(笑)
か 外側のね
あ 一個メタな視線でのギャップです。ていうところ、親友の妹のピアノの発表会みたいな作品じゃないかと
か けっこういい感じにまとまってるね、今回
以上が第二回のあかひね、かみしのの読書放談でした。
HUBからかみしのの家に移動し、お酒を飲みつつぐだぐだとしゃべる。
これがまた最良なのでした。
前回のもの
こちらも募集中。感想を聞きたい本、本当に面白い本、連続ものの一巻、自費出版本、なんでも読みますので、リクエストうけつけ中です。
帰ってきた読書放談(第三回:読書大喜利①~動物園と△~)
かみしの(以下:か) そういうわけでね、場所を移動したわけですけど
あかひね(以下:あ) このね、誰かに話しかけてる体になるのも変な話ですけどね、書き起こすんですから(笑)
か そうね(笑)
あ リスナーさんがいる気になっちゃう(笑)
か じゃあじゃあじゃあ、お題を
あ なんも考えてないですけど、えー、最初は易しいほうがいいですね……「動物園みたいな小説」
か 動物園みたいな本……思いつきました
あ 早いなあ、言っといてなんも思いつかない、先言ってください
か 高橋源一郎の『君が代は千代に八千代に』っていう
あ それ動物園感あるんですか
か あの、登場する人達が奇人変人ばっかりで、たとえば下ネタというか下ネタどころじゃないエロ、グロ、ナンセンスみたいなところもあり、それが短篇集になってて、いろんな人図鑑みたいな形で区分けされてて。高橋源一郎も『動物記』という本も書いているというところで、こんな軽いジャブみたいな感じで動物園感あるかな、と
あ その感じでいうと、前のときに言った『日本フォーク私的大全』はどっちかっていうと動物園だったんですよ、でも言ってしまったので、そうだなここは『キノの旅』で
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か ふんふん
あ 同じように、これの場合は人物じゃなくて国、いろんな国の世界観みたいなのを見ていくと。大事なのはキノは傍観者でしかない。あくまで外側から見るし、内部にそんなに過干渉はしない、それが動物園的……キノの国に対する視線がそうですよね
か なるほどね、外部から眺めている感じ
あ ただ旅をするのが目的なので、まあ『キノの旅』かなと
か なるほど、そういう漫画で『少女終末旅行』というのがあるんだけど
あ 言ってましたね
か それも同じように、ロストテクノロジーのような世界を二人でとことこ進んでいく、傍観者的にいろんな世界を旅していく……そういうの、いいよね
あ なんか他にあるかな、そういうの。これは小説じゃないですけど、いとうせいこうの「東京ブロンクス」っていうラップはまさにそうですね。「俺はラッパー JAPPA RAPPA MOUSE起きたら外は暗いまま 寝過ごしたと思ってドアを開けたら東京はなかった」から始まって、朝起きると東京がないんですよ。ぐちゃぐちゃな東京を比喩として、その東京のぐちゃぐちゃな感じがヒッピホップスタイルと酷似してる。
か ほう
あ 「こんなディスコはまるで知らない 屋根も柱もブースもない ミラーボールもレーザービームもレジもクロークもない ラジオもない 電話もない あっても受話器は誰も取らない」
か パロディ、パロディ(笑)
あ ここはパロディなんですけど、なんというかねディストピア。東京にたった一人残ったラッパーの歌
か その感じでいったら村上龍の『限りなく透明に近いブルー』も、黒人が出てきて、暴力とかセックスとかあるんだけど、でも主人公はさめてるんだよね。それがタイトルになってるんじゃないか、という説もあって、さめてる人がごちゃごちゃした世界を眺めてるというのは視線の問題でよくあるのかもしれない
あ 「東京ブロンクス」の場合は誰もいないですけどね、『アイアムレジェンド』みたいな
か というわけでね
あ 脱線するところが醍醐味ですからね
か じゃあ、次。そうだね、「三角形みたいな作品」
あ 三角形……うーん
か 難しいな
あ 3つながりで考えるしかないかあ
か 先行でどうぞ
あ じゃあね、まあちょっと置きに行った感はありますけど、夢水清志郎事件シリーズ『そして五人がいなくなる』かな、最初の。いわゆる三つ子がでてくるんですよ。読んだことあります?
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か 読んだことない
あ 夢水清志郎っていうグラサンの探偵が出てくる話で、はやみねかおる先生の作品なんですけど、児童書の青い鳥文庫でやってて、アイちゃんとマイちゃんとミーちゃんっていう三つ子が主人公なんですよ。で、三つ子が住んでる家の隣に古い洋館があって、そこにある日長身で黒のスーツで真っ黒なサングラスをかけた男が住むんですよ。中には大量の本が運び込まれて、その男の名前が夢水清志郎
か ほおー
あ わりと本格の推理ものなんですけど、三つ子が出てきて誰一人欠けてはいけないというところがまあ三角形と言えるんじゃないかと
か 三位一体のね、なるほど
あ 三つ子だってことは叙述ミステリーになってるんですけど、表紙でネタバレになっているという
か 表紙で叙述ミステリーばらすなよって感じ(笑)あるよね、帯とか裏表紙でネタバレしてるやつ
あ ミステリーじゃなきゃいいって部分もありますけど、『老人と海』のネタバレやばかったですからね。物語の八割くらいあらすじに書いてありましたよ(笑)それ読んだらもういらないやろと(笑)
か 新潮文庫の?新潮文庫書くんよ。「○○が死ぬまでのストーリー」とか書いてある(笑)もうわかっちゃったやん、と。『悲しみよこんにちは』とか、サガンの。あと武者小路実篤の『愛と死』とか全部後ろでネタバレされてる
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あ いうないうな
か ねえ、まあなるほどね、3という数字に注目してね。言ったはいいけどぱっと思いついたのは夏目漱石の『草枕』だった
あ なんでなんですか、それは
か 文章の中に「芸術家は三角形に住んでいるようなものだ」みたいな一節が
あ よう覚えてますねそんなん
か あった気がして。印象的なフレーズだったから覚えてて。ヒエラルキーの頂点にいるという意味合いではないんだけどね
(正しくは:『四角な世界から常識と名のつく、一角を磨滅して、三角のうちに住むのを芸術家と呼んでもよかろう』でした)
あ 周縁にいるというような感じなんですかね
か っていうのがまず思い浮かんで、あと四角形には鈍角も鋭角もないわけじゃん、全部90°だから。でも三角形に関してはあるから、この鋭いとか鈍いとかっていうのは文章でも使う言葉で
あ ああ、いい視点だな。その視点はなかったな
か それでいったら『草枕』ってものすごい鋭い文章なんだよね。夏目漱石ってどれをよんでも、普通に面白いっていうか
あ もっちゃりしてるイメージはありますね
か 読みやすいんだけど、これはなんだか読みづらい。最初の一文が有名だけど「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい」。最初だけかと思ったら全部そんな感じで、フレーズ集みたいな部分もある。あの鋭さ、確か『街場の文体論』か何かでも取り上げられてたけど、ドライブがかかった文章かつペダンティックでわかりづらいようなこと書いてあるんだけど、でも嫌味くさくない
あ もともとごりごりのインテリですからね
か そういう感じをスパッと出してきて珍しいというので、まあ夏目漱石『草枕』かなというところですよ
あ さくさくいっていいですね。ちなみにかみしのさんってほんまもんの大喜利ってやったことあります?
か しょっちゅうやってる
あ 本を一冊もって、本の中のフレーズしか使っちゃいけない大喜利っていうのをずっと前からやってるんですけど、一回やってみませんか。面白いんですよ、一文だけ切り取ると意味が違ってきて
か やってみよう。あとあれはやってる、背表紙というか本のタイトルでJpopの歌詞みたいにする
あ あー、最近のやつでいうと文庫短歌に近いですかね
か そうね、あと一番ヴィジュアル系のバンドっぽいタイトルの本とか(笑)島田雅彦『そして、アンジュは眠りにつく』とか
あ 組み合わせたりとかしてね
か 『重力ピエロ』もそれらしさがある。本を使った遊びって結構面白いよね。そろそろ三つ目のお題行こうか
あ そうですね、ちょっとひねりましょうか。えー、では……「走り幅跳びのような本」
か 走り幅跳びのような本……?
→次回、最終回あかひねとかみしのの考える「走り幅跳びのような本」とは……?そしてどんどん複雑になるお題
前回です
よまいでかという企画もやっています。そろそろ第三回を挙げる予定です。リクエスト募集中です。
帰ってきた読書放談(第二回:かばんの中の本と毒素)
かみしの(以下:か) はい、企画!「かばんの中の本」、を紹介して自分がどんな本にひかれるかを話すというのはどうでしょう
あかひね(以下:あ) おお、ありますよ~
か 僕も出そう
あ お互いにガッと出てくるのがいいですね(笑)聞いた話では人はかばんに何冊も本を入れないらしいですよ
(HUBの机の上に本が積みあがる)
か 同じくらいもってるね
あ かみしのさんが6冊、僕は7冊ですね
か じゃあ、リストだけいこうか
【あかひねの本】
【かみしのの本】
か なんか気になるのとか、語りたいのとか。『アキハバラ@DEEP』は?
あ 最近オタク系のことを振り返りながら復習してると、『電車男』の昔の映像とかみて涙しちゃうわけですよ。一番オタクが調子乗っていたころの作品。「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」とか聞いてると涙出てくるんですよね。まだ秋葉原の突っ込む事件の前なんで
か 輝いてたころね
あ まだパフォーマーとかがいっぱいいた時代の
か なんだかんだ古き良き時代というかさ、最近ポテトチップスのカバーが2chのAAで、やっちゃう気持ちもわからんでもないという気がした
あ 今はもう死んだ文化ですからね、今じゃねえだろ、とも思うけども
か 石田衣良をね、読んだことがないから。『4TEEN』とかめっちゃはやってはいたんだけど、『作家の本棚』っていう本棚の写真とエッセイが載ってる本があって石田衣良の部屋見てすごいむかついたんだよね(笑)おしゃれ系白でまとめて、洋楽とかのジャケット飾っちゃう、みたいな
石田衣良の部屋
あ よく作家で「時代と寝る作家」っていう言い方ありますけど、石田衣良見てるとたぶんそのタイプ。出してる本を見ても、時代に沿うんですよ、『池袋ウエストゲートパーク』とか。
か 時代と町と一緒に生きてる感じはあるね
あ 時代と寝る作家って普遍性がちょっと下がるんですよね。その時に引き合いに出されてたのがいとうせいこうの『ノーライフキング』で、あれは都伝説っていう形で情報が口コミで広がっていく不思議さみたいなのをたぶん本にしてるんですよね。確かにどこの学校でも同じ噂がされてるというのは気持ちが悪い
か 確かにね
あ 「人面犬いたらしいよ」とか。ネットが出てくると知っていることが予想の範囲内になったから、面白みないですけど
か 阿部和重とか、高橋源一郎とかも時代と寝る寄りな気がして、高橋源一郎は文学スポンジおじさんだと思ってるんだけど、その時代の文学的なものをどんどん吸収してそれをぎゅっと出すみたいな。高橋源一郎って文学を良く褒めてるんだけど、いいところを見つけていいところを吸収するっていう。排除じゃないんだよね思考が。魔法少女ものが流行る前、『まどマギ』の何年か前に魔法少女ものを書いてたり。
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あ へえ
か 阿部和重も『クエーサー』みたいなアイドルものを出してて、人間とボカロとアンドロイドの3D(スリー・ディメンション)アイドルっていうのを書いてたり。アイドルものって例えば今朝井リョウが書いてたりするし、漫画でも地下アイドルの話をやってたりとか
あ これでも地下アイドル、というかネットアイドルというのが出てきますね
か アイドル文化ってやっぱディープだよね、最近刺されたけど
あ あれも結局アイドルなのか、みたいなところはありますけどね
か ああいう外部に設置された物語、成功ストーリーであれ、卒業っていうAKB的ストーリーであれ、物語に飢えてる人たちはああいうの見るとドキッときちゃうんだよね。あの事件もそういうところだと思うんだよね。勝手に物語を作り上げてしまって
あ 物語なあ、物語は意外とそこらに転がってますけどね。前も言ったかもしれないですけど、「怪人気質」と「探偵気質」とあって、僕は「怪人気質」の人間なんで、自分が最初の原動力となって物語とか都市伝説を起こしたい派なんですよ。怪文書とかを回したいタイプなんですよ。意味深な張り紙を貼るとしますよ、するとその情報から次の張り紙の位置がわかる、みたいなものをやることができるわけですよ。誰でも、いつでも。その選択肢が残されてる以上、人を殺して物語を作ろうという気持ちがあんまりわからない
か もちろん僕もわからないけど、でもそういうタイプじゃない人間の方がたぶん多いから。学生生活とか幼少期とかにひねくれた人とか、いじめとかで、自分を認められないというか自尊感情が得られないような人は
あ 自尊感情、大事ですね
か 承認欲求とかね。さっきのラーメン屋の話じゃないけど、自分が行ってアイドルを有名にするというところに求めてしまう、一緒に成長していくじゃないけど。特に地下アイドルは距離がものすごく近いし、半分大学生だし、でもステージに立ってるものと支えるものという立場があるからね
あ ちょっと前にコミックウォーカーで『ニョロ子の生放送』というのをやっててね、いわゆる萌え系の顔の女の子が生放送を毎晩やると、それを中心に据えた生主の漫画なんですよ。可愛い女の子がわちゃわちゃやってるときに「久しぶりだね」とかコメントが出て、「一年ぶりだね」とか。そんな毒気がないもんじゃねえだろ、と(笑)
か ニコ生もツイキャスもyoutuberも地下アイドルだからね、あれも
あ やばいですよ、あれ
か あっこは闇深い界隈だと思うわ
あ フォロワー200~300人くらいで自称・生主で内容が文芸、批評、政治、哲学でツイッター有名人にやたらと議論を吹っかけてるアカウントとかあるわけですよ。闇がすごい、と(笑)
か アルファに話しかけて、無視されて、無視されるのは自分がハイスペックすぎるからみたいな
あ そうそう(笑)「逃走乙」みたいな。かといって晒されたら「数の暴力だ」っていう。わかるんですけど、数の暴力をもってるってわかってるわけじゃないですか、もってるからいったところもあるわけじゃないですか、それを行使されて暴力だっていうのは、あまりに筋違いな気がするんですよね。「あいつ拳銃持ってるから素手で挑んだろ」っていって撃たれたら「撃たれた」っていうのはおかしいでしょ(笑)
か あるなあ。文芸とか文学ってのを自己紹介欄に書いちゃうのはね、これは持論なんだけど「本の虫」を自称する人は本の虫じゃない、「活字中毒」を自称する人は活字中毒じゃない、やっぱり自尊感情みたいなところはあるんだろうね
あ それをやってる自分に意味を見出すっていうところでちょっとずれますもんね。僕は広いジャンル、広い範囲で好きっていう人は本当はにわかというのはよくいいますね。「本が好き」じゃなくて、このジャンルのこの作家のこの作品が好き、っていうのをずばっと言ってる人は意外と他の部分もフォローしてる。
か まあ本の話に戻るけど、いいね、いいラインナップだよね
あ 今日はわりと好きな本が入ってますからね
か 『ロートレック荘』も面白かったなあ
あ 読んでないんだ、まだ。読もう読もうと思いながら……
か これなんだっけな、半分ロートレックの画集みたいになってて
あ 本当だ、入ってる
か あと『生物と無生物のあいだ』流行ったね、昔。高校生くらいのときに
あ ちょっと前にはやった新書読むと面白いですよ、『99.9%は仮説』『バカの壁』『さおだけ屋はなぜつぶれないのか』
99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 (光文社新書)
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さおだけ屋はなぜ潰れないのか? 身近な疑問からはじめる会計学 (光文社新書)
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か あったねー、『京都ぎらい』とかもあるじゃん、最近。『生物と無生物のあいだ』面白かった。高校で生物の授業とかとってたら、特に目新しいことは書いてないんだけど、でもウイルスとか面白かったなあ。で、又吉大先生ね。又吉の自由律俳句いいよね
あ いいですね。この前の『カキフライがなければこなかった』は買って読んでて、こっちがなかったんですよ。今日見つけたから買おう、と思って
あ あとはもう『匣の中の失楽』
か 四大奇書ね。結局読んでないからなあ
あ 『ドグラ・マグラ』、ちゃかぽこで止まってますからね
か 言及される率高いけど読まれてない本ランキング、トップに近そうだね(笑)
あ 長い
か 短編めっちゃいいんだけどな、「死後の恋」とか最高
あ 『ドグラ・マグラ』読むよりも、読んだ横溝正史が窓を壊してしまったというエピソードの方が……
か 面白い(笑)
あ かみしのさんは、河出書房のやつ二つ……知らないなあ
か 『白骨の処女』は『新青年』の編集長で江戸川乱歩を世に出した人の小説で、長編なんだけどタイトルから面白さがただよっているなという。江戸川乱歩臭がするなあと。こっちの『恋と退屈』は銀杏Boyzのボーカルの峯田のブログにのっけてた物語だね。こういうバンドのアーティストが出してる本が好きで、大槻ケンヂもそうだし。『リンダリンダ』とか『グミチョコ』とか
あ 大槻ケンヂもサブカル野郎ですからね
か 大槻ケンヂはサブカルおじさん。あと最近バンドとかのボーカルが本だすの流行ってて、RADWIMPSの野田洋次郎『ラリルレ論』ってのとか、クリープハイプの尾崎世界観とか、大森靖子とか。はっぴいえんどの松本隆もなんか出してたし
あ あの人らはなんか、別格感ありますけどね
か 半分文壇みたいなところにいるよね、文化人
あ バンド関係は触れてこなかったので……、僕は完全に昭和のフォーク野郎なので
か まあ野坂昭如先生ね、あとね
あ 野坂昭如をダウンタウンが何発しばいて怒られないかっていう企画面白かったです
か 見たわ、だんだん機嫌が悪くなっていく野坂昭如(笑)
あ 笑いながら反撃するんですよね
か 文学ヤクザだから(笑)ちょっと前に読んだ『指の骨』っていう現代の作家が書いた戦争文学があって、面白かったんだけどちょっと個人的に疑問があって、戦争に行ってない人が書く戦争文学にどういう意味があるのかなあ、と
あ まあ、そうですよね
か 終わり方が生きてるか死んでるかわからないような状態で、戦争文学って生き残ってなきゃ書けないわけじゃん、大岡昇平とか。想像上の戦争文学にどれほど説得力がでるのかなって。震災を経験してない人が書く震災文学とか
あ 文学にする必要はないですよね、SFかあるいは時代小説
か 日本史の教科書とかを読めば、戦争の悲惨さとかって十分に伝わるはずだから
あ 教科書だと追体験ができないので物語にする意味はあると思うんですけど、今の作家がやる意味があるかというと微妙……
か 野坂昭如とかだと実際に経験してるわけで、『戦争童話集』も完全に物語で、体のおっきなクジラが日本軍の潜水艦に恋しちゃう話。報われない話で、そういう想像力の話ではあるんだけど、やっぱり説得力はあるんだよね。っていうのが疑問でこれは今読んでて、まあ『消された漫画』についてはムック本で買えよという話なんだけど、ちょっと気になっちゃって。で『ゴースト≠ノイズ(リダクション)』はなんか面白そうだったから
あ 最近こういうアニメ調の絵多いですよね
か ね、ただね、青春に飢えてるので僕。青春的な感じの学校とかカーテンがぴらっみたいな
あ ふわーみたいな
か こういう感じを出されると、買わざるを得なくなる(笑)
あ 青春ねえ、こういうのなかったからなあ
か 追い求めちゃうよね。最近ラノベででた『ただ、それだけでよかったんです』とかも学校もので、惹かれちゃうよねえ。っていうのとあと幽霊、怪奇ものが好きなので。まああとは短歌、一冊くらい、気軽に読めるし。
あ 怪奇、怖い話も触れてないなあ
か 怪奇大好き。この佐藤弓生の夫が『リテラリーインゴシック』とかゴシック系の編集とか著書をしてる人で、とてもいい
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あ なんなんですか、ゴシック系って
か 色でいったら黒、作品でいったら乙一の『GOTH』とかもそうだし、泉鏡花がいたりとか、宮沢賢治がいたりとか、大槻ケンヂもいたりとか、三島由紀夫もいたりとか。読んでて、暴力、血、館、みたいな印象
あ なんかふわっとわかりました。ホラーに僕は触れてこなかったです
か ホラーいいよー。日本ホラー小説大賞の受賞作を読んでいこうってのを大学のときにやってて、年代を経るごとにだんだんだんだんしょぼくなってくる
あ オチみたいのはあるんですかね
か 例えば貴志雄介の『黒い家』とか『悪の教典』ならサイコパスなシリアルキラーがいて、そいつが迫ってくるみたいな
あ 自分で作るのは好きですけど、怖くて読めないタイプです
か 本屋にいったらどういう本にひかれるかっていう話で、僕は完全に青春と怪奇
あ 僕はやっぱりミステリー、ミステリーとSFですかね。コメディってジャンルがあまり確立してないのがつらいなあ
か そうだねえ、最近読んだホームズパロディはコメディだったけどね
あ なんですかそれは
か オルメスっていう探偵がいて、脚本形式で書かれてて、一つの事件が5、6ページで終わるんだけど。事件が起きるとオルメスがやってきて、一言証言を聞くと「わかった、全部わかった」っていってすぐに解決編に行くんだけど、結局全部犯人に語らす(笑)そういう形式もさることながら、話が落語なんだよね。つまり、論理的な言葉遊びみたいな
あ そういうのもね、各ジャンルでいけばあるんですよ。それこそ『六枚のとんかつ』とかもそうですし。筒井康隆の中でもギャグだろってのもあるし、『○笑小説』ってのもありましたし
か 東野圭吾のね
あ ミクロに見るとあるんですけど、大きいジャンルとしてないんですよね
か サブジャンルなんだよね、コメディミステリー、コメディSF
あ こんなにお笑いが発展している日本で笑いを主体とした話がないというのは残念な話で
か 喜怒哀楽はジャンルにしにくいんじゃない、「イヤミス」だし。
あ でもホラーはあるでしょ、怖いという。お笑いもあっていいと思うんですよね。映画とか映像作品にはあるんですよ
か そうだね、戯曲にもあるもんね
あ 小説にはないんです、難しいってのはあると思うんだけど……
か 森見登美彦とかコメディだと思うけどね
あ ああ、森見登美彦はコメディですね。万城目学もそうだと思う
か 町田康も近い気がする
あ あの辺の人たちに頑張ってほしいですね
か 『○○○○○○○○殺人事件』とかもコメディだったよ
あ 僕は最近あえて森見とか万城目に対立していこうかと考えていて、京大諦観学派をそろそろディスっていかなきゃいけないんじゃなかと(笑)
か なるほどね(笑)
あ 他の大学の学生がかわいそうですよ。ただの無気力な学生のはずなのに、四畳半の部屋に住んでるというだけで、何か価値があるような感じになるでしょ、あの人たちのせいで。京大生がやってるってだけでセンスがあるように見えるでしょ、あの人たちのせいで。
か なるね(笑)
あ 京大のここ最近の学祭のテーマとか知ってますか?糞ほど面白くないんですよ。2chとかニコニコの紋切り型の感じ
参考URL
か どんな?(笑)
あ 1960年とかかっこいいですよ「独占資本主義社会におけるマゾヒズムとサディズムの意識」、次が「仮眠の季節における僕たちのあいさつ」、これかっこいいな。これがですよ、最近はどうなってるかというと
か 2010年代とか見てみようか
あ 2012年「NFって、出席点ありますか?」2013年「京大を、取り戻す。大学の理想、形を物語るのは、学生であります。」2015年「ばっかお前・・・俺がついてるだろ!」
か ……ひどいなあ(笑)
あ ほんとにね、センスがごみになってると思いませんか
か なんかキャッチコピーみたいなね
あ 2000年代もね、2007年「満喫! モラトリアム」2006年「溢れる才能の無駄使い」(笑)
か なんか浪人、とか落とした単位、みたいなのをネタにしがちだよね。そういうのがツイッターとかでリツイートされてもてはやされがち
あ 70年とかは長いんですよ「歴史の試練に応えんとする我ら 失うまい 奔流の中で科学者の目を! いつわりの孤高に別れをつげ 人民の連帯の息吹をだきしめよう 君のその精悍の腕でがっしりと」
か NHKみたい(笑)
あ どっから変わっていくんだろう
か ネット文化じゃない?2000年代くらいの
あ 1995年「我輩は京大生である 理性はもうない」
か ちょっと怪しくなってきた
あ 1996年「知と痴の融合」1997年「狂うは一時の恥、狂わぬは一生の恥」このあたりからださい、というか凡庸になってきてますね
か 90年代後半からきてるね
あ このあたりから生徒側もあまりやる気なくなってきたんですかね。80年代もいいんですけど1984年「海を、荒れた海を見つめながら 彼女は呟いた 『わたしは誰?』」とか詩的でパンチがある、というわけで近年の京大生のセンスがいかに凡庸になってるかってのがわかるわけです。そこで森見登美彦みたいな才能のある人がでてくると、おまけでセンスがあるように見えてしまうという
か うん
あ 哲学者ぶって四畳半にこもってるやつらから自尊心を奪い取ろうという
か 森見のおかげで京大「なのに」四畳半やってる俺、みたいなのはでてきたよね
あ 京大生が踊ってみた、京大生だからみたいな。京大生なのにコスプレしててとがってるみたいな。芸大の文化祭いったらもっとすごいのいますよ。京大生がやってるという付加価値がなんかある。このバイアスをなんとかしたい……
か 不思議と東大はあんまりそんなのがないね。官僚養成的な真面目さがあるのかね
あ 面白いやつって、本当に重たいバックボーンとか、何かをまじで極めてたり、まじで積み上げてきたやつは面白いですけど、なんとなくだとこういう2chのコピペみたいなことになっちゃうんですよ
か 京大バイアスねえ
→次回、帰ってきた読書大喜利!パワーアップしました
前回収録分
前にとったやつ。よまいでかの企画説明もしてます。
帰ってきた読書放談(第一回:最近読んで面白かった本)
かみしの(以下:か)というわけでね、夏ですよもう
あかひね(以下:あ) まだ夏ではないでしょ(笑)
か 夏だよ(笑)とりあえずテーマを何か決めよう
あ 最近の日本文学界はどこへ行くのか……
か そんな大々的なテーマを(笑) そうだなあ最近読んで面白かった本とかでいいんじゃない?三冊くらいずつ
あ お、じゃあいってきますか
か じゃあまずぼくからいくね。なにかなあ、最近印象が強かったのはトマス・ピンチョンの『LAヴァイス』ってやつかな
LAヴァイス (Thomas Pynchon Complete Collection)
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あ 聞いたことしかないですね
か ピンチョンっていうわかりにくい作家がいるんだけど
あ 名前はすごく印象に残りますけどね、ピンチョン
か 顔写真もすごくピンチョンっぽいよ
あ 名前負けしてないんだ(笑)ピンチョン面?(笑)
か インスマウス面、ピンチョン面(笑)
ピンチョン面
あ 怖っ!生まれたときは普通だけどだんだんピンチョン面になっていく……
か という覆面作家がいて、顔が出てる普通に(笑) 顔に反するくらいわかりにくくて『重力の虹』っていうのが文学の大作っていわれてるんだけど、『LAヴァイス』は中でもよみやすいっていわれてる。ミステリー仕立てで、主人公のドッグっていうのが常に麻薬を吸ってるヒッピー探偵で、そんなドッグのところに昔の彼女が「助けて」っていって仕事をもちこんでくるんだ。その事件のために核心的な場所にいったら殴られて、気づいたら横に死体があって、探偵自身が犯人に仕立て上げられてしまうという。
トマス・ピンチョン全小説 重力の虹[上] (Thomas Pynchon Complete Collection)
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あ しっかりミステリーですね
か うん、ただやっぱり純文学作家が書いたミステリーって感じで、対しているのはアメリカという国というか歴史というか……
あ ああ、意味があるんだ
か っていうところで、これで読みやすいんだったら『重力の虹』なんて読めねえよっていう読みづらさではあった(笑)70年代のポップカルチャーがんがん入れてて全く知らないネタでドッグが盛り上がってて知らねえよっていう(笑)映画化されてて『インヒアレント・ヴァイス』っていう、これは筋がわかりやすくてよかった
あ なるほど、ピンチョン。あ、『ノックス・マシン』読みましたよ
か お、読んだ?
あ 全然ミステリーだとは思わなかった。
か SFだよね
あ ミステリーじゃないですよね?このミスじゃないですよね?ミステリーをテーマにしたSF
か no china manね
あ あれは何なんですか。タイムトラベルものなんですけど、わりと陳腐なネタじゃないですか。面白かったけど、やっぱりなんというかミステリー読ましてくれって感じがしましたね
か 「ノックス・マシン2」の方が面白かった。なんか、設定がすごい面白かったんだよね。ひとつだけ「読者への挑戦状」がない。これは空間の揺らぎだ!って。ああいうとんでも理論系の小説は好き
あ 途中に入ってた「引き立て役倶楽部の陰謀」、あれがよくわかんなかったんですよね
か ミステリーマニアしかわからないんじゃ
あ 設定はわかるんですけど、どうも最後がはっきりしない……
か ヴァン・ダインとクリスティは実際にいがみあってたし、そのあたりを面白おかしく書きたかったんじゃないかなあ。失踪事件とかもあったし
あ 失踪事件、『シャーロッキアン』っていう漫画があって、その中でホームズに会いに行ってたっていう真相が書かれてるんですよ。ホームズの話の中にクリスティらしき人物が出てくる、それでちょうどクリスティが失踪した場所とホームズが隠遁してる場所があってて、クリスティはホームズに元気をもらって帰ってきたんじゃないかみたいな
シャーロッキアン! : 1 シャーロッキアン! (アクションコミックス)
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か それは面白そうだね
あ 『シャーロキアン』は面白いんですけど「引き立て役倶楽部の陰謀」はミステリーの体で書かれてるでしょ。それだったら、もうひとひねりほしかったなと。でもあれは面白かったです、「バベルの牢獄」。泡坂妻夫感。
か 『しあわせの書』感ね(笑)そういう仕掛け方をするかっていう
あ ツマオニズムが(笑)
か やっぱりあれはコアなミステリーファンに受ける作品っぽいよね
あ 哲学と哲学研究って違うじゃないですか。あれもミステリーじゃなくてミステリー研究ですよね。ミステリーをテーマにしている作品
か マニアの方がより楽しめる作品になってる。
あ 最近読んで語るべき本ってのが『ノックス・マシン』くらいしかない……、あと大塚英志くらい
か ミステリーつながりで麻耶雄嵩の『翼ある闇』ってのも最近読んで面白くて、いわゆるメフィスト系列の元祖で、清涼院流水が麻耶を好きで研究してたりしてたんだけど。その麻耶のデビュー作。すごかった
あ へえ
か 話すことがすべてネタバレになってしまうタイプなんだけど……、月並みな言葉でいうなら二転三転四転五転……。あと、ぼくの一番好きな探偵メルカトル鮎ってのがいて、これが解決するためだけにいる探偵で、論理的に正しくて問題が解決されてればそれでいい、みたいな、ミステリーを逆手に取ったメルカトルシリーズってのがあるんだけど、そのメルカトルが出てくるんだよね。そういうめちゃくちゃ系の元祖
あ めちゃくちゃといえば、『おそ松さん』が人気ですけど、『おそ松君』の原作を読んだことがあるか、ということですよね若い子たちが
か んー、ないんじゃないかなあ。でもちくま文庫かなにかで『おそ松セレクション』みたいなのがでてるよね
おそ松くん ベスト・セレクション (ちくま文庫 あ 34-3)
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あ おそ松君のキャラクターが南の島で駐留してる日本兵に置き換えられてて、どんどんアメリカの侵攻が激しくなる中で物資が不足して飢えて死んでいくっていう話があるんですよ。最期にアメリカの爆弾が落ちてきて全員死ぬんですよ。その毒がない(笑)
か そういう毒はないね、『おそ松さん』には(笑)
あ 『おそ松くん』は本来そういう作品なんですよ。ウィキを見てもイヤミが死んで終わる話が多いらしい(笑)あと、かき分けてるでしょ兄弟を。どうなんだと。原作は顔コピーして貼ってたんですよ
か まあ、なんていうか声優アニメみたいなところはあるから……『黒子のバスケ』もそうだけどこいつのカラーはこれ、みたいな、アイドルもそうだけど。ある種のアイドルなんだろうね、『おそ松さん』たちは
あ 偶像ですね……まあ、そんな感じですね。他になにか面白かった本あるかなあ。ジュブナイルポルノを読もう月間に入ってから読んだやつ、『魔剣の姫はエロエロです』『ランプの魔人が美女だった~』『魔王と子づくり』とか(笑)
ランプの魔神が美女だったので、恋人にして同棲性活を始めてみた (二次元ドリーム文庫)
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か なんか最近ダンジョンもの、というかファンタジーを日常生活に落とすみたいなの流行ってるじゃん。『亜人ちゃん~』とか『ダンジョン飯』みたいな
ダンジョン飯 1巻<ダンジョン飯> (ビームコミックス(ハルタ))
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あ 『ダンジョンに出会いを求めるのは』云々とかも、『魔王様ちょっとそれとって』ってのもありますね
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 文庫 1-10巻セット (GA文庫)
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魔王様ちょっとそれとって!! 1 (ヤングジャンプコミックス)
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か なんなのかな、RPGの世界観を日常で描くのが流行ってるのかな
あ まあよくあるっちゃあある、でも確かにゲーム的な世界観が浸透したから、さらにそれをもじるってのができるんですかね
か そうだね。『アクセルワールド』とか『SAO』みたいなのは、むしろヴァーチャル世界に入っていくタイプだったけど、逆だよね。
ソードアート・オンライン プログレッシブ (1) (電撃コミックスNEXT)
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あ カクヨムの投稿作とかを見てると一行目で「これはいわゆる剣と魔法の世界の物語である」みたいなことをいうわけですよ。だからそういう共通認識がもうあるんですよ、ああ、あんな感じねみたいな
か 九井諒子はそういう感じだよね。RPGでカットされた日常の部分を書くというか
あ あとね、ジュブナイルポルノで面白いと思ったのが、いわゆる主人公の一人称が変わるのはエロゲの文脈だって東浩紀だったかが言ってて、それは確かにそうで、エロゲをやってると唐突に攻略対象の女の子視点のシーンとかがでてくるんですよ。逆に男の方が客観的に書かれてて。同じようにジュブナイルポルノでも男目線のあとに女目線があって、主人公の目線が登場人物ごとに変わっていくんですよ
か へえ、『化物語』シリーズみたいな
あ 結局ジュブナイルポルノはエロゲを本にしたものなんで、やっぱり。
か エロゲってすごいよね、って思うわ。やったことないんだけど、いろんな話を聞いて『Ever17』とか『ととの。』とか、メタ的で
あ 一時期そういう時期があったんですよね。奈須きのことか虚淵玄とかがばりばり現役でやってた頃ですね。田中ロミオもそうか。『人類は衰退しました』いいですよ
か 『AURA』は見たんだけど、好きそうだな、って思いながらまだ手を出してないガガガ文庫
あ ガガガ文庫はしょうもないラノベが多いというイメージが(笑)
か あまりラノベを読んでこなかったからねえ
あ 僕も要所要所で読もっと思って読んでましたね。だから読むときはだいたいシリーズ全部買って読む、という
か 僕はもうネットで30選とかやってる、あんなん見て読んでた
あ 僕もそうですよ。『ハルヒ』読んで『バカテス』読んで……
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か 『とらドラ』とか
あ 『狼と香辛料』も面白かったし、やっぱ『キノの旅』ですね。あと『文学少女』、『デュラララ』も読んでたな。甘々のぬるいのが好きで。僕、ラノベに求めるのはぬるさなので(笑)
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か ぬるさ、ゆるさ(笑)
あ 終わらない日常で女の子たちがわちゃわちゃ動いてる、かわいいってだけのやつがラノベに関しては一番好きです。
か やっぱそんな君には『ゴドーを待ちながら』をおすすめするよ(笑)
あ (笑)
か あれ日常アニメだから。じゃあ、そんなわけで二冊目はジュブナイルポルノ全般ということで(笑)一応一冊選ぶとしたら?
あ どれかな。なんとなくフランス書院が一枚上手な感じはするんですよね。ちゃんとつぼをついてくる感じ。他のとこだとエロ分が少ない感じ。なのでやっぱりフランス書院の……『魔王と子づくり』にしときましょうか(笑)
か それは、そのまんま?(笑)
あ そのまんまです、タイトルそのまんま(笑)
か なんというか……ジャパンすごいね。
あ 視点が変わるというのも、男の想っている相手の感情がブラックボックスに入れられることがないってことなんですよね。必ず明示されてしまう。それって、男の犯されたい欲望に対応しているのかもしれない
か 奥深いなあ、フロイトの世界だ
あ ラノベはAVだ、ってのが僕の持論としてあって、つまり俺TUEE系とか剣と魔法系とかフォーマットにいかに落とし込んでいくかっていう
か データベースをどう使っていくかという
あ あれは僕に言わせるとAVにおける体位なんですよ。だいたいAVの流れって正常位をやってバックをやって騎乗位をやって、っていうパターンがあって、それをワンパターンとはあまりいわないんですよ。その流れを守ったうえでどう差別化をしていくか、言葉であったり、コスプレであったり。もう一つが欲望を効率的に刺激するシステムがあって、小さい差異を出していく。これがラノベ=AV説の理由というか。だからラノベはワンパターンだというのがもともとお門違いな話で、そういうもんだと。ジュブナイルポルノはそれをエロまで突き付けていったものだという感じ
か ラノベのAV回帰だと(笑)
あ じゃあそろそろ三作目を
か エロ関係でいったら羽田圭介の『メタモルフォセス』とか……
あ 別にエロ関係じゃなくていいですよ(笑)
か 最近ってほどじゃないけど全共闘時代直後の作品を読んでて、庄司薫とか。しらけてる世代。その『赤頭巾ちゃん気をつけて』ってのがあるんだけど
あ なんか聞いたことあるな
か いわゆる「ぼく」文学を村上春樹よりも先にやっていた文学って言われてる。その人の書いた『白鳥の歌なんか聞えない』っていうのがあって、それがべたなラブコメみたいな感じでよかった
あ へえ
か 主人公の薫君の幼馴染で由美って女の子がいるんだけど、『赤頭巾ちゃん』ではそこまでかかわってこなくて、でも続編になると急にぐいぐいくるようになって。なんでそうなったかってのは物語にかかわってくるところなんだけど。犬のぬいぐるみを主人公にわたして、その耳のところに「あなたのことが好きです」みたいな、きゅんとする。
あ そんな感じでずっと続いていくんですか?
か うん、でもそんな中で、生と死とはみたいな、メメント・モリといいながらその死をどう克服していくかみたいな、克服しなくてもいいのではないかみたいな、『風の谷のナウシカ』みたいに清濁飲み込むべきではないかといったテーマが書かれつつ
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あ きゅんきゅんラブコメでもあると
か 由美がかわいい。子供のころに丸いチョコレートを渡して、薫君はそれを食べちゃうんだけど、由美は「地球をあげたつもりだったのに」って泣いちゃったりとか。純文学って堅そう、調子乗ったおじちゃんたちが調子乗ったことを言ってる、みたいなイメージがあるけど、そうじゃない純文学もいっぱいあるよって。
あ 僕、純文学のイメージって、いわゆる内容がないって思っちゃうんですよ。つまり、エンタメ系の事件と事件の間に挟まってるつなぎみたいな部分しかないイメージがあるんですよ。何ページ読んでもこのままなんだろうね、みたいな。
か リーダビリティはないかもしれないね。むしろ純文学を読んでる人にとってはエンタメのが中身ないなあって思う時もある。さっきのAV説じゃないけど、エンタメ作品ってある程度パターンがあって、そこに意識的になりすぎるとパターンじゃんってなっちゃう。純文学は行間がすごく空いてるから、そこをこっちから読みこんでく感じがある
あ それがね、たるいんですよね
か そこが僕は面白いんだよね。でも受身的に面白い純文学もたくさんあると思うよ
あ 純文学の行間を読むということが、僕は読まされてると思っちゃう。作者に。エンタメは作者がわかるように書いてくれてる。そう考えると、なんというか純文学の書き手の方が偉そう。書き手が偉そうで、読み手も偉そうだと思ってるけど、結局書き手の掌の上で踊ってるんじゃないか、みたいな。バイキングと料亭とでどっちの客がよりよくもてなされているか。
か 僕はバイキングが好きなんだよね。カスタマイズするのが好きなのよ。文学の、自分で勝手に行間を読めるところが面白いとこだと思うんだよなあ。
あ 純文学はそこに神の代弁者みたいなのがいるわけですよ。答えがあっちゃうわけじゃないですか。
か あるとは思わないけどな。個人的には。作者があんまり関係なくて、作品だけ見てる感じがある。他の作品と比べてこんなとこが違ってる、一致してるみたいな。
あ メタ的に読むもんなんですか
か メタ的に読んでるかな、読者が誕生して作者は死んでるみたいな。ポストモダン的な。ネットもそうだし、読む人がそのまま作る人になっていくようなイメージ。作者ってのはあまり重視されないっていう……まあ、これも一昔前の話のような気がするけど。はてな匿名ダイアリーみたいな。
あ なるほどなあ。とりあえず僕も三冊目を何か出そうかな。『ラーメンと愛国』の話ってしてませんでしたっけ。
か してないね
あ 面白くて、読んだきっかけが松岡正剛が千夜千冊っていう書評ブログで紹介してて……それを知ったのが『バーナード嬢曰く』なんですけど(笑)
か 『バーナード嬢曰く』で松岡正剛を知って、そこから『ラーメンと愛国』を知ったと(笑)
あ ラーメン屋の変遷をみていく。今現在はやってる店主が黒のTシャツとか着て、壁に筆で相田みつおみたいな詩を書いてて、作務衣みたいな服を着てるラーメン屋をひとくくりに「作務衣系」っていった所が面白い。そういうラーメン屋は「ラーメンポエム」を飾ってると(笑)
か 完全に馬鹿にしてるね(笑)
あ 最初にラーメンがでてきたのが戦後の時期なんですけども、当時は支那そばとかいろんな読み方があった中で「チキンラーメン」の登場で統一されたと。そんときに札幌の方のラーメンはシベリアの方から来てるんですよ、九州の方は中国から来ていて、出自が違うんですけども
か ナウマンゾウとヘラジカみたいな
あ そうそう、それが「チキンラーメン」の登場でひとつに統一されたんですよ。スープも違って出自も違うから、本来なら違うものとして認識されてもいいはずなんです。その裏付けになっているのが沖縄は「そば」扱いなんですよね。これはCMで広がった「ラーメン」表記が、当時アメリカに占領されてた沖縄では広がらなかったんですね
か なるほどねえ。
あ そのあと、脱サラしてラーメン屋になるという流れがあって、これは大手のフランチャイズを経営するってことなんですよ。服装もコックスーツが基本だったと。地域の差異の破壊で、画一化だった。それのアンチとして出てきたのが「作務衣系」。一店舗に一つの味。ゆるいナショナリズム
か たしかにラーメンって全然違うもんね
あ カップヌードルとかラーメンの味じゃないし、チキンラーメンもラーメンとして異質でしょ
か ちょっとだけ話それるけど『リロ・グラ・シスタ』って小説の中でチキンラーメンをそのままかじる男ってのが出てきて、実際やってみたらしょっぱいけどおいしかった
リロ・グラ・シスタ: the little glass sister (光文社文庫)
- 作者: 詠坂雄二
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2013/12/05
- メディア: 文庫
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あ ベビースターラーメンみたいなものですね
か ラーメンと社会の関係を考えるのは面白いね。「一蘭」の話だけど、大阪の「一蘭」って人すごい並んでて、でもリピーターって少ないんじゃないかって思うんだよね。個室というのが、カウンター越しに「へい」って出されるんじゃないというのが「新しい」という段階で止まったまんまなんじゃないかなと。最終的には「次郎系」のスタイルがヘビーユーザーを生み出してる気がする
あ ラーメンって「作務衣系」以降、妙なストイックさをうりに出すようになってきて。真剣にスープ作るから真剣に味わえみたいな。
か 一対一のバトルみたいな。2chのネタで「高菜食べてしまったんですか」ってのがあったけど、あれの出始めた時期とか調べたら面白いかも
あ ラーメンの文化ってのが、いわゆる下層文化な気がするんですよね
か そうね、ジャンクな感じがね
あ その中でラーメンを食うことによって自己表現していく人種が現れてきたような気がしてて
か 食べログ系ね
あ 「次郎系」のリピーターもそうですよね。ロッドを守って、よき客として、よきジロリアンとしての自分を確立する。店側もそれを黙認して、客にヒエラルキーを作るのを許してる。明確な階段ができるわけですよ、それを登るためにくる、みたいな。ネトゲもそうじゃないですか。暇だし、金もないしって人がネトゲやってればそこでは神になれる。それでやたらとローカル・ルールを作りたがる。自分たちの中だけのジャーゴンを作る
か またコピペの話だけど吉野家の牛丼のやつもそうだよね。あれも下層文化だからそこでしか自己実現できない人のおかしみがある。……いつの間にかラーメンの話になったね。ラーメン食べたくなってきたね。
あ お、あとで行きますか
か ひとついっとくと大阪のラーメンはまずい(笑)
あ 京都に住んでたらね……レベル高いですからね
か まあ、そんな感じで前半戦終了ということで
→次回、お互いのかばんに入っている本を大公開!
よまいでかでとりあげてほしい本も募集中!
かみしのが頑張って書きます。
hyohyosya.hatenablog.com
前回の読書放談はこちら。